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「えっと。ミコトを育ててくれた人のことなんだけど……。」

 もうなんと言ったらいいかわからなくて、そう尋ねてみる。そう言うとミコトはハッとした表情を浮かべた。

「ミコト、育てたの真っ白な人。名前、知らない。」

「名前を知らないの?ミコトはその人のことなんて呼んでいたの?」

 ミコトの両親は僕と同じようにいないのだろうか。それならお父さんという言葉にもお母さんという言葉にも反応を示さなかったのが理解できるような気がする。

「……ミコト、呼んだこと、ない。」

「え?」

 ミコトの言葉に僕は言葉を失った。

 どういうことだろうか。育ててくれた人を呼んだことがないとは。

 僕は両親がいなくても爺ちゃんがいたし。孤児だって、孤児院があるって爺ちゃんが言ってた。そこでは、孤児たちの面倒を見ている人がいて、神父とかシスターとか呼ばれているとか聞いたんだけど。その人たちのことなのだろうか?

 呼んだことがなかったってことは、ミコトは育児放棄されていたってこと?生きるための最低限の衣食住だけ補償されているだけで、交流はほとんどなかったということだろうか。

 ミコトはどれだけ過酷な場所にいたのかと思うと僕は胸が痛くなるのを感じた。人との交流がなかったからミコトは言葉が不便なのかもしれない。

「あ、うん。ごめんね。変なこと聞いて。これからはミコトは爺ちゃんと僕の家族だよ。いっぱいお話していっぱい笑おうね。」

 なんて言っていいかわからない。

 爺ちゃんは今後もミコトの面倒をみるとは断言しなかったけど、なぜだか僕はミコトと家族になりたいと思った。こんな状態のミコトを放り出したくはなかったのだ。僕の完全なエゴだけど。

「……家族、って何?」

 案の定、ミコトは「家族」という言葉も知らなかった。家族を知らずに過ごしてきたのなら当たり前なのかもしれない。

「ミコトのことが大好きで一緒に暮らす人のことだよ。」

「……大好き?ミコト、わからない。」

「うん。そうだね。一緒に暮らしていけばそのうちわかるようになると思うよ。」

 ミコトは僕たちが大好きなのかどうかわからず混乱しているようだ。戸惑ったような表情を浮かべている。

 それもそうだよね。会ったばかりなのに、大好きもなにもわからないよね。

「……うん。」

「これから、よろしくね。ミコト。」

「……よろしく?シヴァ」

 戸惑った表情はウサギのようでとても可愛かった。

 ミコトは僕の妹として家族になるんだと、この時の僕は何の迷いもなくそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

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