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「なぁ、爺ちゃん。ミコトの住んでいたところの常識って僕たちが住んでいるところと全然違うのかな?パンも見たことなかったみたいなんだけど。シチューも暖かいことに驚いていたし。スプーンも使ったことがないみたいだったしさ。」

 汚れたお皿を洗いながら、爺ちゃんに話しかける。

 ミコトはとても不思議だ。まるで食事の仕方を知らないようにも思えた。スプーンだって使い方をしらなかったみたいだし。今までどんな食事をしていたのだろうか。

「そうだねぇ。少なくとも儂はパンは世界各国にあると思っていたよ。今まで旅をしてきた中でパンを知らない国は見たことがない。そう考えるとミコトちゃんはとても不思議な子だ。どこかに閉じ込められて今まで暮らしていたのかもしれないね。身体の線が細いことも考えると、まともな食事を与えられていなかったのかもしれないのぉ。」

「だからミコトは家を出て来たのか?」

「どうじゃろうなぁ。ただなぁ。素足じゃったんだよ。素足で逃げてきたにしては、足の裏が綺麗だった。汚れてもいなかったのぉ。まるで誰かに抱きかかえられて連れてこられたようにも見えるのぉ。」

 爺ちゃんは真っ白な髭に手を当てながら僕の問いかけに答える。

「そう言えば、真っ白い服を着ていたのに服も汚れ一つなかった。うちは森の中にあるし、自分で歩いてくれば服だって汚れるはずなのに。」

「そうじゃろう。ここは森の中の一軒家じゃ。周辺には家もなければ小屋すらもない。ミコトちゃんが一人で歩いてきたわけではなさそうじゃ。かといって、抱きかかえられてきたにしてもおかしな点はあるがのぉ。とにかくミコトちゃんは綺麗すぎるのじゃ。」

「……うん。」

 ミコトは容姿も綺麗だが、服もとても綺麗だった。真っ白な上質な絹の洋服をまとっていた。

「育児放棄されていたにしては、洋服だけは高価だったしのぉ。それに髪の毛もとても綺麗じゃ。毎日丁寧に手入れをされていたと見受けられる。」

「……うん。」

 確かにミコトの髪はとても綺麗だった。真っ白でサラサラで、艶々としていた。貴族の令嬢でさえあれほど綺麗な髪を持った女性はいないだろう。貴族の女性なんて見たことないけど。

「そうじゃのぉ。あれほど綺麗な髪は貴族の女性でも見たことがないのぉ。」

「つまり、ミコトは……。」

「そうじゃ、ミコトちゃんは……。」

 僕と爺ちゃんの声が重なる。

「女神様ってことですね!!」

 僕は目をキラキラとさせて自分の考えを爺ちゃんに告げる。

 そうだよ。ミコトが女神様なら全てに納得がいく。きっと生まれ落ちたばかりの女神様なんだ。だから、ミコトはいろんなことを知らないんだ。

 ミコトが女神様だと考えると全てに納得が行くような気がして、僕はコクコクと首を縦に動かした。

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