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「ミコト!遅くなってごめんね。食事を持ってきたよ。って、ミコトって食べれないものとかあった?」

 僕は出来立てのシチューとパンを持って寝室のドアを開けた。

 ミコトは、ベッドに腰かけてこちらを不思議そうに見ていた。

「……食べれないもの?わからない。」

 ミコトは首を傾げると、食べれないものがあるかわからないとだけ言った。

「そっか。爺ちゃんが山羊のミルクを使ったシチューを作ってくれたんだ。」

「それが、食事?」

 僕はベッドとベッドの間にテーブルを用意すると、その上に爺ちゃんが作ってくれたシチューとパンを乗せた。ミコトはテーブルの上のシチューを興味深そうに見つめている。

「うん。ミコトはシチューを見たことがないの?」

 シチューはこの国では一般的な料理じゃなかったっけ?と不思議に思いながらミコトに尋ねると、ミコトはコクリと小さく頷いた。

「初めて、見た。こっちの……固形物は、なに?」

 ミコトは皿に山盛りになっているパンを指さして質問してくる。流石にこれには僕も驚いた。

「パンだよ。知らない?食パンとか、ロールパンとか知らない?」

「……知らない。」

 ロレインちゃんがくれたのは、ロールパンだった。焼きたてのようでまだふわふわと柔らかくて美味しそうだ。もしかすると牧場に出る前にロレインちゃんが焼いたのかもしれない。

「……ミコトはいつもどんな食事を食べていたの?」

 僕は山の中で暮らしており、町に行くこともほとんどない。そのたべ料理といったら爺ちゃんが作ってくれるものか、数少ない書物で伝え聞いたものしかしらない。

 もしかすると、ミコトがいたところでは僕の知らない料理ばかりなのかもしれない。そう思ってミコトに尋ねるが、ミコトは首を傾げた。

「……食事は食べること。知ってる。ミコト、なに、食べてた?知らない。なんていう食べ物か、わからない。」

「……えっ?」

 僕はミコトの言葉に戸惑いを隠せなかった。

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