上 下
91 / 92

第92話

しおりを挟む


「ぐっ……。あ、アンジェリカがそう望むのなら。」

「あら。侯爵のことなのよ?侯爵は呪いを解きたくないのかしら?」

「うぐっ……。」

 侯爵様はローゼリアさんの問いかけに苦悶の表情を浮かべている。
 どうやら侯爵様もクリスの姿を気に入っているようだ。そうよね。とても美しくて素晴らしいものね。クリスは。

「……クリスの姿の方がアンジェリカは気に入っているのだと思う。ならば、私はこのまま、呪いが解けなくても構わない。」

「ふふっ。それは本心かしら?」

「……本心だ。」

「そう。まあ、そういうことにしておきましょう、か。」

 ローゼリアさんはにっこりと含むように笑って私を見た。

「アンジェリカが望むのなら、侯爵は呪いを解かなくてもいいそうよ?それで?アンジェリカもそれでいいわよね?」

 確認するように問いかけてくるローゼリアさん。
 きっと、侯爵様はお優しいから私がクリスのことを気に入っているから、私のためを思って呪いを解かないでおくと言っているのだろう。私が、侯爵様の呪いを解くのを躊躇したから。

「……少し、時間が欲しいわ。」

「ダメよ。私、明日この国を出て行くわ。ちょっととあるお方にお呼ばれしていてね。しばらくはその国にいることになると思うの。だから、明日には旅立つわ。」

 ローゼリアさんの言葉は本当なのだろうか。それとも嘘なのだろうか。それは私にはわからない。

「わかったわ。侯爵様の呪いを解く方法を教えて。」

 呪いを解く方法を今教えてもらっても、すぐに解けるとは限らない。そんなに簡単に解ける呪いであれば、すでに侯爵様の呪いは解けていることだろう。それでも、何年も呪いが解けなかったということは、きっと呪いを解く方法は簡単なものではないはず。
 それに、今ここで呪いを解くことができたとしても、すぐに呪いを解かなくてもいいはず。
 ローゼリアさんからは呪いを解く方法を教えてもらうだけなのだから。今ここで解呪しなければいけないわけではないのだから。

「そう。じゃあ、アンジェリカにだけ教えてあげる。侯爵には貴女の口から教えてあげなさい。あのね、呪いを解く方法は…………。」

「……えっ?」

 侯爵様に聞こえないように、ローゼリアさんは私の耳元で小さく囁いた。呪いの解呪方法を。
 私は、その解呪方法を聞いて動きをピタッと止めた。
 そんな私を見て満足そうにローゼリアさんは微笑むと

「じゃあ。私はもう行くわね。」

 と、来たときと同じようにスッと消えていってしまった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

婚約破棄なんてどうでもいい脇役だし。この肉うめぇ

ゼロ
恋愛
婚約破棄を傍観する主人公の話。傍観出来てないが。 42話の“私の婚約者”を“俺の婚約者”に変更いたしました。 43話のセオの発言に一部追加しました。 40話のメイド長の名前をメリアに直します。 ご迷惑おかけしてすみません。 牢屋と思い出、順番間違え間違えて公開にしていたので一旦さげます。代わりに明日公開する予定だった101話を公開させてもらいます。ご迷惑をおかけしてすいませんでした。 説明1と2を追加しました。

処理中です...