上 下
87 / 92

第88話

しおりを挟む


「……どうして!どうして!!黙っていたんですかっ!!わ、私、クリスが侯爵様だったなんて知らなくてクリスの身体中をなで回してしまいました。それに、か、身体中にキスしちゃったじゃないですかっ!どうして!どうして、止めてくださらなかったんですかっ!!」

 侯爵様が悪いわけじゃない。
 私が、クリスはただの可愛くて可愛くて仕方の無い猫としか思っていなかったのがいけなかったのだ。

「クリスの!クリスのお腹に顔を埋めてぐりぐりもしちゃったじゃないですかっ!!もふもふしてて至福の時でしたけど!!クリスってば嫌がらなかったじゃないですかっ!!猫だって思うじゃないですか!なんで侯爵様なんですか。なんで、なんで侯爵様なんですかぁ……。」

 侯爵様が悪いわけじゃない。
 それなのに、私の口からは侯爵様を責め立てる言葉ばかりが飛び出してしまう。侯爵様が悪いわけじゃないのに。きっと、私があまりにもクリスを可愛がるから、実は人間なんだなんて言い出せなかったんだと思うし。そりゃあ、侯爵様にお会いしたときに「実は私はクリスなんだ。」って言ってくれれば……。いいえ、ダメだわ。それじゃあ遅いわ。侯爵様にお会いしたころには既にクリスの身体中モフった後だったし。

「す、すまない……。」

 ポカポカと侯爵様の胸を叩きながら感情を吐露していると、侯爵様が私の頭を優しく撫でてきた。ビックリして溢れていた涙がピタッと止まる。

「どうして……。どうして、侯爵様が謝るのですかっ。私がクリスが猫だと思い込んでいただけなのに、どうして……。」

「いや、だが。そうは言うが私がクリスの時の姿はまんま猫だ。猫としか言いようがないのは事実だ。アンジェリカが猫だと思うのは仕方のないことだ。むしろ、クリスが私だなんて普通思うわけがないだろう。だから、言い出せなかった私が悪い。すまない。私がもっと早くに打ち明けていればよかったんだ。」

「違うっ!侯爵様が悪いんじゃないわ!私が、見境無くクリスを可愛がってしまったのがいけないの。思えばクリスが嫌がるそぶりを見せることもあったような気がするわ。それでも、私はクリスを……。」

「いや、アンジェリカは悪くない。私はアンジェリカにクリスの姿で撫でられるのが好きだったんだ。アンジェリカの可愛い顔を見つめるのが好きだったんだ。アンジェリカの膝の上で眠るのが私にとって唯一の至福の時だったんだっ!すまなかった。すまなかった。アンジェリカ。」

「いいえっ!!いいえっ!!侯爵様、私がっ!!」

「いいや、私が悪かったのだ。」

「違うわ。私がっ!!」

「いいや、私だっ!!」

「私がっ!!」

「私だっ!!」

「お二人とも、いい加減になさいまし。それよりも侯爵様、着替えをお持ちいたしました。まずは着替えてからアンジェリカお嬢様とゆっくりお話をされたらいかがでしょうか。」

「えっ?あっ……。」

「えっ?ああっ!!す、すまないっ!!」

 侯爵様と言い合っていると、見かねたロザリーが仲裁にやってきた。その手に侯爵様のためと思われる着替えを持って。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

王太子から婚約破棄され、嫌がらせのようにオジサンと結婚させられました 結婚したオジサンがカッコいいので満足です!

榎夜
恋愛
王太子からの婚約破棄。 理由は私が男爵令嬢を虐めたからですって。 そんなことはしていませんし、大体その令嬢は色んな男性と恋仲になっていると噂ですわよ? まぁ、辺境に送られて無理やり結婚させられることになりましたが、とってもカッコいい人だったので感謝しますわね

二度目の結婚は異世界で。~誰とも出会わずひっそり一人で生きたかったのに!!~

すずなり。
恋愛
夫から暴力を振るわれていた『小坂井 紗菜』は、ある日、夫の怒りを買って殺されてしまう。 そして目を開けた時、そこには知らない世界が広がっていて赤ちゃんの姿に・・・! 赤ちゃんの紗菜を拾ってくれた老婆に聞いたこの世界は『魔法』が存在する世界だった。 「お前の瞳は金色だろ?それはとても珍しいものなんだ。誰かに会うときはその色を変えるように。」 そう言われていたのに森でばったり人に出会ってしまってーーーー!? 「一生大事にする。だから俺と・・・・」 ※お話は全て想像の世界です。現実世界と何の関係もございません。 ※小説大賞に出すために書き始めた作品になります。貯文字は全くありませんので気長に更新を待っていただけたら幸いです。(完結までの道筋はできてるので完結はすると思います。) ※メンタルが薄氷の為、コメントを受け付けることができません。ご了承くださいませ。 ただただすずなり。の世界を楽しんでいただけたら幸いです。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

一目ぼれした小3美少女が、ゲテモノ好き変態思考者だと、僕はまだ知らない

草笛あたる(乱暴)
恋愛
《視点・山柿》 大学入試を目前にしていた山柿が、一目惚れしたのは黒髪ロングの美少女、岩田愛里。 その子はよりにもよって親友岩田の妹で、しかも小学3年生!! 《視点・愛里》 兄さんの親友だと思っていた人は、恐ろしい顔をしていた。 だけどその怖顔が、なんだろう素敵! そして偶然が重なってしまい禁断の合体! あーれーっ、それだめ、いやいや、でもくせになりそうっ!   身体が恋したってことなのかしら……っ?  男女双方の視点から読むラブコメ。 タイトル変更しました!! 前タイトル《 恐怖顔男が惚れたのは、変態思考美少女でした 》

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

処理中です...