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第85話

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「にゃ、にゃにゃうぅ。」

 クリスは人の言葉をしゃべらない。
 だって、猫だから。クリスは猫だから。
 いくら賢い猫だって、人の言葉を理解しても人の言葉をしゃべることができるはずがない。それこそ魔法を欠けない限りは。でも、私にはそんな魔法をかけることはできない。

「クリス……秘密ってなに?とても大切なことなの?クリスがしゃべれるってこと、私には知られたくないことなのかしら?……とても気になるけど、クリスが私に秘密にしておきたいと言うのならば、私はクリスの意思を尊重するわ。だって、私も誰にも言えない秘密があるもの。ロザリーにも言えない秘密が。」

 クリスの秘密は知りたい。でも、嫌がるクリスから無理矢理聞き出すようなことではない。それに無理矢理聞き出してクリスにこれ以上嫌われたくないし、負担をかけたくはない。
 猫にとってストレスは大敵なのだから。

「にゃう……。にゃ……にゃう。」

 クリスは考えるように俯いて、視線を私に映す。それを何度か繰り返す。

「いいのよ。クリス。無理をしなくていいの。この部屋からでて侯爵様の元に戻りたいのなら、私からロザリーにお願いするわ。」

 落ち着かないクリスをなだめるように優しくクリスの頭を撫でながら言うと、クリスがもっと頭を撫でてというように私の手のひらに頭を擦り付けてきた。

「可愛いわね。クリスは。ねえ、クリス。私はもう大丈夫よ。あなたの秘密だって無理に聞き出したりはしないわ。それに、ほら。もうすぐ日が落ちてしまうわ。侯爵様のお屋敷に戻らないと侯爵様が心配するわ。」

 クリスと一緒にいる時間はとてもゆったりとしたもののはずなのに、気がつけばいつの間にか日が落ちようとしている。
 クリスは私の言葉に顔を上げると、窓から外をジッと見つめる。日没前の赤く染まる空を見ながらクリスは「はぁ……。」と深いため息をついた。
 それから、意を決したように私を見つめる。


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