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第65話
しおりを挟む「え?あ、あれ?クリス?あれ?侯爵様は……?」
侯爵が急に姿を消してしまった。そして、代わりに侯爵がいた場所にはクリスがちょこんと座っていた。私はきょろきょろと辺りを見回すが侯爵の姿はなかった。
「あの……侯爵様はどこにいかれたのでしょうか?」
侯爵に抱きしめられている状態でいたため、侯爵の姿は見てはいなかったのだ。だから侯爵がどこに消えたのかもわからない。
そばにいたお父様とお母様なら何か知っているかと問いかけるが、お父様もお母様もクリスに視線が固定されてしまっており、私の声が聞こえていないようで返答はなかった。ならば、と、ロザリーに尋ねてみるが、こちらも何故かクリスに視線を向けたままで私の声が聞こえていないのか返答がない。
「なんで、皆クリスを見ているのかしら?」
クリスがいつからここにいたのか私は知らない。だって、侯爵に抱きしめられていてまわりを気にしている余裕などなかったから。
大好きなクリスが来ていたのに、侯爵に気を取られていてクリスに気が付かなかっただなんて。私のクリスへの愛はその程度だったのかとショックを受ける。どこにいても、なにをしててもクリスが来たらすぐに見つけられると思っていたのに。
「ふふっ。アンジェリカはまだ気が付かないのかしら?」
大好きなクリスが急に現れたこと、侯爵が急にいなくなったこと、大好きなクリスの存在に今まで気が付かなかったことに対して混乱していると、ローゼリア嬢がクスクスと笑いながら言った。
「え?どういうこと?」
ローゼリア嬢の言っていることがわからなくて首を傾げる。
ロザリーやお父様やお母様に視線を移してみるが、三人ともクリスを凝視したままなのでローゼリア嬢の言葉の意味を尋ねられそうにない。
「誰かから聞くより自分で気が付いた方が良いと思うわ。」
ローゼリア嬢はそう言って何も教えてくれなかった。
私はいつもと違って大人しく座っているクリスに視線を向ける。クリスは私と視線があった途端、慌てたようにふいっと視線を逸らした。
おかしい。いつものクリスじゃない。
もしかして、ローゼリア嬢が言いたいのはクリスのことだろうか。
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