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第60話
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「やはり、人違いかと思われます。」
私は侯爵に向かって深々と一礼した。
「私がアンジェリカを見間違うはずがないだろう。それに確かにこの屋敷の庭だった。覚えている。」
侯爵はいくら私が人違いだと言っても納得しないようだ。だが、侯爵がうちの庭を知っているというのはどういうことだろうか。
侯爵がここに来たのは初めてのはずだ。それなのに、なぜうちの庭を知っているのだろうか。
「ふふふっ。そんなことでもめていないで、言葉よりももっとわかりやすい確認の仕方があるじゃないの。キス、してみればわかるのではなくって?」
私と侯爵が言い会っていると、見かねた……というより面白がっているローゼリア嬢がそう提案してきた。確かに、侯爵が初恋の人とキスをすれば呪いが解けるとは聞いているが。それだけは聞き入れることができない。
だって……。
「私、初恋もまだだし。キスだって好きになった人としたいわ。」
侯爵の呪いを解いてあげたい気持ちはあるけれども、絶対に侯爵は私と初恋の人とを勘違いしているのだ。だから、間違いで侯爵とキスをすることは避けたい。そりゃあ、侯爵は婚約者なのだから、侯爵以外の誰とキスをするんだって話はあるけど。でも、そこは夢を見たっていいじゃない。
「アンジェリカは、私を好いてくれてはいないのか……。」
侯爵が悲しそうな声を出す。
「そうねぇ。アンジェリカが侯爵様のことがお好きなら、侯爵様がもう襲ってしまっているのではなくって?」
侯爵を諭すようにローゼリア嬢が言う。その言葉が侯爵の傷を抉ったように思うのは気のせいだろうか。
「ふぐぅ……。」
侯爵が口を押えてその場に跪く。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
侯爵とキスをするのは嫌だけど、侯爵のことが嫌いなわけではないのだ。だから、侯爵が苦しそうに呻けば気になってしまう。
「大丈夫よ。ちょっと私の言葉で傷を抉ってしまっただけだから。それより、アンジェリカは本当に侯爵様のことが好きじゃないのかしら?少しはカッコイイとか思わなかったの?」
「えっ……。はい。」
「うぐぅ……。」
ローゼリア嬢の問いかけに私は素直に答える。
「そう。じゃあ、私が侯爵様にキスをしてもいいかしら?」
私は侯爵に向かって深々と一礼した。
「私がアンジェリカを見間違うはずがないだろう。それに確かにこの屋敷の庭だった。覚えている。」
侯爵はいくら私が人違いだと言っても納得しないようだ。だが、侯爵がうちの庭を知っているというのはどういうことだろうか。
侯爵がここに来たのは初めてのはずだ。それなのに、なぜうちの庭を知っているのだろうか。
「ふふふっ。そんなことでもめていないで、言葉よりももっとわかりやすい確認の仕方があるじゃないの。キス、してみればわかるのではなくって?」
私と侯爵が言い会っていると、見かねた……というより面白がっているローゼリア嬢がそう提案してきた。確かに、侯爵が初恋の人とキスをすれば呪いが解けるとは聞いているが。それだけは聞き入れることができない。
だって……。
「私、初恋もまだだし。キスだって好きになった人としたいわ。」
侯爵の呪いを解いてあげたい気持ちはあるけれども、絶対に侯爵は私と初恋の人とを勘違いしているのだ。だから、間違いで侯爵とキスをすることは避けたい。そりゃあ、侯爵は婚約者なのだから、侯爵以外の誰とキスをするんだって話はあるけど。でも、そこは夢を見たっていいじゃない。
「アンジェリカは、私を好いてくれてはいないのか……。」
侯爵が悲しそうな声を出す。
「そうねぇ。アンジェリカが侯爵様のことがお好きなら、侯爵様がもう襲ってしまっているのではなくって?」
侯爵を諭すようにローゼリア嬢が言う。その言葉が侯爵の傷を抉ったように思うのは気のせいだろうか。
「ふぐぅ……。」
侯爵が口を押えてその場に跪く。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
侯爵とキスをするのは嫌だけど、侯爵のことが嫌いなわけではないのだ。だから、侯爵が苦しそうに呻けば気になってしまう。
「大丈夫よ。ちょっと私の言葉で傷を抉ってしまっただけだから。それより、アンジェリカは本当に侯爵様のことが好きじゃないのかしら?少しはカッコイイとか思わなかったの?」
「えっ……。はい。」
「うぐぅ……。」
ローゼリア嬢の問いかけに私は素直に答える。
「そう。じゃあ、私が侯爵様にキスをしてもいいかしら?」
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