上 下
50 / 92

第50話 ファントム視点

しおりを挟む
 

 

 

「……アンジェリカはどうして怒ってしまったのだろうか。私は、アンジェリカを襲わなくてすむと思って安心していたのに。私は、アンジェリカに女性としての魅力を感じなくて嬉しかったというのに。」

 アンジェリカが執務室から出て行ってしまった。

 しかも、なんだかぷりぷりと怒っている。

 私の何がいけなかったのか、私にはよく理解ができていなかった。

 アンジェリカが怒って出て行ってしまったショックで、私は執務室のソファーの上に倒れこむようにもたれこんだ。

「ええ。アンジェリカお嬢様が襲われずにすむことは良いことです。これで、旦那様がアンジェリカお嬢様のキスによって呪いが解ける可能性が高くなったというのに。どうしたことでしょう。」

 私の側に控えていたヒースクリフも首をひねっている。

「……アンジェリカお嬢様にお怒りの原因をそれとなく聞いてきます。」

 ここにいても解決策が見つかるはずもなく、ヒースクリフはそう言って執務室から出て行った。残された私はアンジェリカを怒らせてしまったショックで気を落としていた。

 アンジェリカを怒らせるつもりなど全くなかったのに。むしろ、面と向かって落ち着いて話をすることができることを一緒に喜んで欲しかったのに。

 私は沈んだ気持ちのまま、ヒースクリフが戻ってくるのを待った。

 怒っているアンジェリカに私が直接問いただしても良い結果にならないと思ったからだ。

 いや、これは言い訳だ。私がアンジェリカに会うことが怖かったのだ。嫌われてしまったのではないかと思うと、怖くてアンジェリカを追いかけることもできなかったのだ。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 「旦那様っ!!旦那様っ!!大変でございますっ!!」

 ドタバタと普段冷静沈着なヒースクリフが屋敷の廊下を走りながら執務室に飛び込んできた。

 アンジェリカに何を怒っているのか確認しに行ってもらっていたのだが、私はヒースクリフが慌てるようなことをアンジェリカにしてしまっていたのだろうか。

 「なんだっ……。アンジェリカは私の何に怒っていたというのだ?もしかして、私の存在そのものが受け付けなかったのだろうか。

 ヒースクリフの慌てようをみて、私は、アンジェリカにやはりどうしようもないくらい嫌われてしまったのだと受け取った。

 だが、ヒースクリフは私にそれ以上の衝撃を与える言葉を告げた。

 「旦那様っ!大変でございますっ!アンジェリカお嬢様が屋敷内から忽然と姿を消しましたっ!」

 「な、なんだって……。送り届けるための馬車はどうしたんだっ……。」

 「も、申し訳ございませんっ。まさか、アンジェリカお嬢様がもうご帰宅されてしまうとは思わずにまだ用意ができておりませんでした。」

 そう言ってヒースクリフは額を床に擦り付けそうなほど頭を下げて謝罪の言葉を言った。

 アンジェリカがこんな日も暮れた時間に出て行ってしまうだなんて。馬車も用意していないだなんて、なにかあったらどうするんだ。

 いくら、私のことが嫌いで飛び出してしまったとしても、アンジェリカは可愛い可愛い女性なのだ。そんなアンジェリカが夜道を歩いていたら攫われてしまうに決まっている。

 私は自分の失態に頭を抱えた。

 アンジェリカに嫌われていたっていい。

 ただ、アンジェリカが無時に家に帰宅できていればそれで……。

 「ヒースクリフ。今すぐ馬車を用意するんだ。そして、アンジェリカを探せ。アンジェリカの無事を確認したら丁重に送り届けてくれないか。」

 「はっ。かしこまりました。」

 ヒースクリフはそう言ってすぐに執務室を出て行った。

 私は、ヒースクリフが出て行った扉を恨めしく睨みつける。

 アンジェリカを夜道を歩かせるほど怒らせてしまった自分を許せなかった。

 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

王太子から婚約破棄され、嫌がらせのようにオジサンと結婚させられました 結婚したオジサンがカッコいいので満足です!

榎夜
恋愛
王太子からの婚約破棄。 理由は私が男爵令嬢を虐めたからですって。 そんなことはしていませんし、大体その令嬢は色んな男性と恋仲になっていると噂ですわよ? まぁ、辺境に送られて無理やり結婚させられることになりましたが、とってもカッコいい人だったので感謝しますわね

二度目の結婚は異世界で。~誰とも出会わずひっそり一人で生きたかったのに!!~

すずなり。
恋愛
夫から暴力を振るわれていた『小坂井 紗菜』は、ある日、夫の怒りを買って殺されてしまう。 そして目を開けた時、そこには知らない世界が広がっていて赤ちゃんの姿に・・・! 赤ちゃんの紗菜を拾ってくれた老婆に聞いたこの世界は『魔法』が存在する世界だった。 「お前の瞳は金色だろ?それはとても珍しいものなんだ。誰かに会うときはその色を変えるように。」 そう言われていたのに森でばったり人に出会ってしまってーーーー!? 「一生大事にする。だから俺と・・・・」 ※お話は全て想像の世界です。現実世界と何の関係もございません。 ※小説大賞に出すために書き始めた作品になります。貯文字は全くありませんので気長に更新を待っていただけたら幸いです。(完結までの道筋はできてるので完結はすると思います。) ※メンタルが薄氷の為、コメントを受け付けることができません。ご了承くださいませ。 ただただすずなり。の世界を楽しんでいただけたら幸いです。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

【完結】指輪はまるで首輪のよう〜夫ではない男の子供を身籠もってしまいました〜

ひかり芽衣
恋愛
男爵令嬢のソフィアは、父親の命令で伯爵家へ嫁ぐこととなった。 父親からは高位貴族との繋がりを作る道具、嫁ぎ先の義母からは子供を産む道具、夫からは性欲処理の道具…… とにかく道具としか思われていない結婚にソフィアは絶望を抱くも、亡き母との約束を果たすために嫁ぐ覚悟を決める。 しかし最後のわがままで、ソフィアは嫁入りまでの2週間を家出することにする。 そして偶然知り合ったジャックに初恋をし、夢のように幸せな2週間を過ごしたのだった...... その幸せな思い出を胸に嫁いだソフィアだったが、ニヶ月後に妊娠が発覚する。 夫ジェームズとジャック、どちらの子かわからないままソフィアは出産するも、産まれて来た子はジャックと同じ珍しい赤い瞳の色をしていた。 そしてソフィアは、意外なところでジャックと再会を果たすのだった……ーーー ソフィアと息子の人生、ソフィアとジャックの恋はいったいどうなるのか……!? ※毎朝6時更新 ※毎日投稿&完結目指して頑張りますので、よろしくお願いします^ ^ ※2024.1.31完結

処理中です...