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第39話 ファントムサイド

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「なあ、ヒースクリフ。アンジェリカは私を好きだと思っても良いのだろうか?」

 アンジェリカが侯爵家から帰宅した後、ファントムは執事兼右腕であるヒースクリフに話しかけた。

 アンジェリカがファントムのことを思って泣いた。この出来事はファントムに強い衝撃を与えた。しかも、一度しかファントムとして会話を交わしたことがないのにも関わらず、ファントムのことを優しいとまで言ってのける。

 これはもう、アンジェリカがファントムに惹かれていると言ってもいいのではないだろうか。そう、ファントムは考えたのだ。そこに多大なる願望も込められてはいるが。

「そうですね。キャティエル伯爵夫妻の娘であるアンジェリカお嬢様のことですから、行き過ぎたお人よしの可能性も否定できないかと存じます。」

 ヒースクリフはファントムの希望を打ち消すように告げる。その言葉をきいて、ファントムはガックリと項垂れた。

「アンジェリカお嬢様のお気持ちが気になるのでしたら、旦那様のお気持ちを伝えたらいかがでしょうか?」

「どうやってだ?私はアンジェリカにファントムとして会うことができないんだぞ?」

「扉越しでしたら大丈夫だったではないですか。扉越しでお気持ちを伝えてみたらいかがでしょうか。」

「対面したこともない相手から気持ちを伝えられても気持ちが悪いだけだろう?」

「ですが、必死に旦那様の初恋の相手を探されておられるアンジェリカお嬢様が不憫になりませんか?」

「うっ……。」

「しかも、旦那様の呪いを解呪したいからと頑張っておられるのですよ?」

「ううっ……。」

 ファントムはヒースクリフの言葉に撃沈する。

「ここはアンジェリカお嬢様のためにも、旦那様の初恋の相手はアンジェリカお嬢様だと告げなければなりません。そして、アンジェリカお嬢様の手によって旦那様は忌々しい呪いが解かれるのです。」

 ヒースクリフはやや芝居がかったような調子で続けた。

「……呪い、か。その呪いがあるのに、どうしてアンジェリカとキスすることができよう。」

「それは、アンジェリカお嬢様が怯える前にささっと旦那様がキスしてしまえば良いだけのことです。案ずるよりも産むがやすしでございます。」

 ヒースクリフはガンガンとファントムの背中を押し続ける。そうでもしないと、長年の呪いの影響でヘタレ属性が強化されつつあるファントムが動かないからだ。

 ファントムが動かないことにことには、いくら周りがお膳立てしようにも状況が好転しない。そのため、ヒースクリフは多少強引であろうとも、ファントムを動かすことにした。

 幸い、アンジェリカはファントムのことを嫌ってはいないように見えるのだ。ここは押して押して押しまくるのが最善だと思われる。

 場合によっては、アンジェリカのお人好しにつけこむ形も致し方ないとヒースクリフは思っている。彼にとってはファントムが一番大事な主だからだ。

「……わかった。今夜、アンジェリカを侯爵家に呼んでくれないか。」

「かしこまりました。旦那様。」

 しばらくの沈黙の後、ファントムは観念したように言った。それを聞いたヒースクリフは満足そうに微笑んだのだった。

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