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第13話
しおりを挟む「旦那様は晩餐会には参加なさりません。皆さまでごゆっくり当家の晩餐をお召し上がりください。」
そう言って金髪の使用人は恭しく礼をした。まるで変わらないにこやかな表情からは何も読み取ることができなかった。
「だが、この晩餐会は侯爵様と我が娘のアンジェリカの顔合わせの場でもあるはずだ。侯爵様が来られないとは……。」
穏やかで人を疑うことができないお父様の眉間に皺が寄る。まさか、顔合わせの場でないがしろにされるとは思ってもみなかったのだろう。いくら呪い持ちと噂をされる侯爵であっても、自らが招いた晩餐会で姿を見せないとは思いもしなかったことだろう。
もしかして、侯爵は国王陛下に言われて嫌々と晩餐会を開いたのだろうか。そんな風に思ってしまう。
悪い方悪い方に考えるのは自分の悪い癖だ。しかし、まさかここで会うことができないとは思ってもみなかっただけにショックが大きい。それに、この見事なドレスを侯爵に見せられないことにも落胆してる。光を反射してドレスに散りばめられた小さなガラス玉がキラキラと輝くのがとても気に入っている。
それになによりも、クリスが侯爵との晩餐会にと用意してくれたドレスだったのに……。ドレスを用意してくれたクリスに申し訳がない気持ちでいっぱいになる。
ごめんね。クリス。せっかく用意してくれたドレスなのに侯爵には見せられないようだわ。
「申し訳ございません。旦那様とお会いする機会は晩餐会の後にご用意しております。」
そんな私の思考を読んだのか、金髪の使用人は侯爵とお会いすることができる場を用意してくれるという提案があった。
「むっ。」
お父様はその提案に眉間に皺を寄せる。
晩餐会に出られないのに、個別に会う場を用意するとはどういうことだろうか。思わず勘ぐってしまう。
「侯爵様はお忙しいのでしょうか?」
思わず聞かずにはいられなくて、確認してしまう。本当は私に会いたくないだけではないのだろうか。それほどまでに私との婚約が嫌ならばさっさと破棄してくださればいいのに。中途半端にされるのが一番嫌だ。
「ええ。所用がございまして。」
にっこりとした笑みを浮かべて金髪の使用人が答える。その笑みがどことなく嘘くさく感じてしまうのは気のせいだろうか。
「前々から予定されていた晩餐会であろう?事前に予定を調整できなかったのだろうか。」
「この晩餐会の日程自体が国王陛下から急に言われたことでしたので、なかなか調整がつかず……。まことに申し訳ございません。旦那様は晩餐会には参加できませんが、その後キャティエル伯爵様とアンジェリカお嬢様にお会いする席は設けさせていただいておりますので、何卒ご容赦ください。」
金髪の使用人は申し訳なさそうな表情をしてそう答えた。
「旦那様に代わり、ご挨拶をさせていただきます。ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。当家の執事のヒースクリフでございます。以後お見知りおきを。どうか、当家の晩餐をお楽しみくださいませ。」
金髪の使用人は申し訳なさそうな表情をしたのも束の間、すぐににこやかな笑みを浮かべて自己紹介をした。
そして、侯爵不在のまま晩餐会は開始されたのだった。
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