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第12話
しおりを挟む「ここが、キャリエール侯爵様のお屋敷・・・・・・。」
家の前に横付けにされた馬車に乗り込んで到着した先は豪華なお屋敷の前だった。迎えにきた馬車がここで止まったというのならば、きっとここがキャリエール侯爵のお屋敷なのだろう。
まだお屋敷の入り口に立っているだけだというのに、入り口からして豪華だ。真っ赤に咲き誇るバラがアーチを組んでおり、その中央に屋敷へと続く道が用意されている。まるで、バラの中を歩いているようだ。
誰がこのような凝ったバラのアーチを用意したのだろうか。まさか、侯爵の趣味なのだろうか。
「お待ちしておりました。キャティエル伯爵家の皆様。どうぞ、お入りくださいませ。」
しばらく屋敷の入り口で呆けたように立っていると男性が現れた。服装からして侯爵家の使用人だろうか。キチッと髪をまとめているその姿はとても清潔感があった。
(まさか、侯爵様ではないわよね?清潔感はあるが服装が使用人ぽいし。ただ、その服も高価そうな生地を使っている。)
「ああ。ありがとう。それにしてもキャリエール侯爵家はとても素晴らしいね。見事なバラだよ。」
「ええ。そうね。まるでバラに歓迎されているようだわ。可愛らしいバラの妖精でも出てきそうだわ。」
「ありがとうございます。こちらは旦那様が命じて作らせた渾身のバラのアーチでございます。そのように言っていただき旦那様も嬉しく思うことでしょう。」
そう言って使用人と思われる男性はにっこりと笑った。輝くような金色の髪が月に照らされてキラリと光った。
私たちは使用人の男性に案内されて屋敷の中に通された。玄関では数え切れないほどの使用人に一礼されて出迎えられた。きちっと統制されたその姿はいかにこのお屋敷の主が教育をしているかがうかがわれる。
案内された先は、侯爵家の食堂だった。すでに、テーブルにはグラスや食器がセットされていた。まるで私たちが席についたらすぐにでも晩餐会が始まりそうだ。
「どうぞ、お座りください。」
そう言われて、引かれた椅子に私たちはゆっくりと腰を下ろした。そして落ち着くと、私たちの前にワインをもった給仕係と思われる使用人がやってくる。
「ああ。ありがとう。」
「ありがとう。」
お父様とお母様のグラスにワインが注がれる。真っ赤なワインが。
「アンジェリカ様はアルコールは飲めますか?」
「ええ。そうね。少しだけいただいてもいいかしら?」
「もちろんでございます。」
この国では16歳が成人と見なされている。そのため、アルコールも16歳から飲むことが法律で許されているのだ。ただ、私はあまりアルコールに強くはないから少しだけにしてもらった。
本当は飲まなくてもいいのだけれども、とても良い香りがするんだもの。
「では、乾杯いたしましょう。」
「え?」
「君、侯爵様がまだいらしていないようだが?」
私たちのグラスにワインが注がれたのを確認すると、先ほど出迎えてくれた金髪の使用人がにっこりと微笑んで告げてきた。
まだ侯爵の席には誰もついていないのに。もしかして、この人がキャリエール侯爵なのかしら?
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