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第57話
しおりを挟む突然の声にヒューレッドとマリアは驚いて振り向くと、そこには白い靄があった。白い靄は不自然に揺れながら声を発する。
「ヒューレッド様ぁ。そこにいらしたんですねぇ。イーストシティ共和国にでも逃げるおつもりだったのでしょうか?私から逃げられるとでも思ったのでしょうか。」
どこかで聞いたような声にヒューレッドの背筋に冷たい汗が流れ落ちた。
「……マリルリ、さ……ま。」
そう。白い靄から発せられる声は、聖女マリルリの声と酷似していたのだ。
「ふふふっ。声だけで、私だとわかるだなんてヒューレッド様はとても素晴らしいわぁ。まさしく愛の力ですわね。でも、ね。私から逃げようとしたのは許さなくってよ。」
「ま、マリルリ様っ……。」
マリルリの声が一段と低くなる。ヒューレッドがマリルリから逃げたことに苛立ちを感じているようだ。
ヒューレッドは何も言えずに立ちすくむ。
「逃げるわよッ!!」
ヒューレッドよりも早く我に返ったマリアがヒューレッドの腕を掴む。
「あらぁ。私以外の女がそこにいるのかしら?なぁに?ヒューレッド様ってば、その女と一緒にいたいがために、私から逃げたのかしらぁ?邪魔、ね。」
マリルリはヒューレッドたちの姿が見えているのか、ヒューレッドの隣にマリアがいることに気がついたようだ。
ヒューレッドはハッとしてマリアに視線を移した。
「マリアさんっ!逃げて!!」
「逃げるならあんたと一緒よ!!」
ヒューレッドはマリアに逃げるように告げたが、マリアは首を横に振りヒューレッドの腕を強く掴んだ。
ヒューレッドは「何故逃げないんだっ!」とマリアの顔を凝視する。
「まあ、マリアというのね。ヒューレッド様の隣にいらっしゃる方は。そう、マリアね。聞き覚えのある名前だわぁ。私と同じ聖女候補のマリア。私よりも聖女に相応しいと賞賛を受けていたマリアって子が居たわね。偶然かしら?ねえ?そのお名前は偶然かしら?」
「偶然よっ!!」
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「くっ……。」
「ふふふ。苦悩に満ちた声が聞こえるわ。そうよね、マリア。あなたは死んだはず。だって、私がこの手で殺したもの。生きているはずがない。そう、聖女が蘇生の術を使用しない限りは。でも、聖女はこの私。あの女じゃないわ。だから、あの女には蘇生魔法は使えない。そうよね?そうでしょ?ねえ、マリア。そうでしょう?あの女は聖女なんかじゃないわ。ねえ。目も見えない、出来損ないのアルビノの女が聖女になんかなれるわけがないわ。ねえ。そうでしょ?マリア。そうよね?あなたは聖女候補のマリアなんかじゃないわよねぇ?」
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