上 下
39 / 72

第39話

しおりを挟む


「……まあ、イーストシティ共和国につくまでにどこかで一泊しなきゃいけなかったんだから、別にいいよな。でも、マリルリから逃げている最中だったからあまり目立たない方がよかったかも。下手に知り合いなんか作ってしまったら居場所がすぐにバレてしまいそうだ。どうするか、このままとんずらしてしまおうか……。」

 ヒューレッドは男性の言葉を素直に受けいれてしまったが、いざ自由になって街の中をぶらついているとだんだんと不安になってきた。
 そもそもヒューレッドは観光でメンスフィールドシティに来たわけではないのだ。聖女マリルリの手から逃げるために、セレスティアの転移の魔法により、メンスフィールドシティの側まで転移してもらったのだ。
 聖女マリルリからイーストシティ共和国へ逃げるための旅。
 それなのに、メンスフィールドシティの住人と仲良くなって泊めてもらうのはいかがなものなのだろうか。ヒューレッドがメンスフィールドシティにいたという形跡を残してしまえば、せっかくのセレスティアの好意を踏みにじることになってしまうのではないだろうか。
 ヒューレッドはなぜか途端にそんな不安に襲われたのだ。

『ええ~!あの人苦手だけど、ご飯はとぉ~っても美味しかったの~。もっと食べたいから今日は泊まるのぉ!』

「はは……。でも、マリルリが……。」

『大丈夫だよ~。まだ来ないの。だって、セレスティア様が長距離転移してくれたんだよ。2~3日は大丈夫だと思うの。』

「……そうかな?」

『そうそう。大丈夫なの!だから、今日は泊まって美味しいご飯お腹いっぱい食べるの!』

 フワフワはそうとう彼女の作った離乳食が気に入ったようだ。なんとしてでも、泊まって離乳食をお腹いっぱい食べたいようだ。

「でも……そういえば、彼らの名前知らないや。」

『……?名前?それって美味しいの?』

 ヒューレッドは、今になって家に泊めてくれるといった男性とその妻の名前を知らないことに気づいた。

「いや、名前も知らないのに、見ず知らずのオレを泊めるっていうのは、どうなのかと。ただでさえオレ、身分証持ってなかったし……。」

 彼らの名前も知らないことにヒューレッドは気がつき、本当にこのまま彼らの家に泊まってもいいのか不安になる。それに、彼らもヒューレッドの名前は知らないはずだ。ヒューレッドは彼らに名前を言った覚えはないのだから。

『深く考えすぎなの。美味しいご飯をくれる人に悪い人はいないの~。』

 不安を覚えるヒューレッドとは反対に、フワフワは脳天気に答える。

「う~ん。でもなぁ~。もしかしたらマリルリの罠かもしれないし……。」

『考えすぎだよ~。っていうか、マリルリって誰なの??」

「え゛っ!!?」

 どうやらフワフワは脳天気な理由は聖女マリルリのことを知らないからのようである。知らないということはとても幸せなことである。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫
恋愛
孤児のルネは聖女の力があると神殿に引き取られ、15歳で聖女の任に付く。それから3年間、国を護る結界のために力を使ってきた。 しかし、彼女の婚約者である第二王子はプライドが無駄に高く、平民で地味なルネを蔑み、よりよい相手を得ようと国王に無断で聖女召喚の儀を行ってしまう。 高貴で美しく強い力を持つ聖女を期待していた王子たちの前に現れたのは、確かに高貴な雰囲気と強い力を持つ美しい方だったが、その方が選んだのは王子ではなくルネで… 平民故に周囲から虐げられながらも、身を削って国のために働いていた少女が、溺愛されて幸せになるお話です。 世界観は独自&色々緩くなっております。 R15は保険です。 他サイトでも掲載しています。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】前世聖女の令嬢は【王太子殺害未遂】の罪で投獄されました~前世勇者な執事は今世こそ彼女を救いたい~

蜜柑
恋愛
エリス=ハウゼンはエルシニア王国の名門ハウゼン侯爵家の長女として何不自由なく育ち、将来を約束された幸福な日々を過ごしていた。婚約者は3歳年上の優しい第2王子オーウェン。エリスは彼との穏やかな未来を信じていた。しかし、第1王子・王太子マーティンの誕生日パーティーで、事件が勃発する。エリスの家から贈られたワインを飲んだマーティンが毒に倒れ、エリスは殺害未遂の罪で捕らえられてしまう。 【王太子殺害未遂】――身に覚えのない罪で投獄されるエリスだったが、実は彼女の前世は魔王を封じた大聖女・マリーネだった。 王宮の地下牢に閉じ込められたエリスは、無実を証明する手段もなく、絶望の淵に立たされる。しかし、エリスの忠実な執事見習いのジェイクが、彼女を救い出し、無実を晴らすために立ち上がる。ジェイクの前世は、マリーネと共に魔王を倒した竜騎士ルーカスであり、エリスと違い、前世の記憶を引き継いでいた。ジェイクはエリスを救うため、今まで隠していた力を開放する決意をする。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

《完結》転生令嬢の甘い?異世界スローライフ ~神の遣いのもふもふを添えて~

芽生 (メイ)
ファンタジー
ガタガタと揺れる馬車の中、天海ハルは目を覚ます。 案ずるメイドに頭の中の記憶を頼りに会話を続けるハルだが 思うのはただ一つ 「これが異世界転生ならば詰んでいるのでは?」 そう、ハルが転生したエレノア・コールマンは既に断罪後だったのだ。 エレノアが向かう先は正道院、膨大な魔力があるにもかかわらず 攻撃魔法は封じられたエレノアが使えるのは生活魔法のみ。 そんなエレノアだが、正道院に来てあることに気付く。 自給自足で野菜やハーブ、畑を耕し、限られた人々と接する これは異世界におけるスローライフが出来る? 希望を抱き始めたエレノアに突然現れたのはふわふわもふもふの狐。 だが、メイドが言うにはこれは神の使い、聖女の証? もふもふと共に過ごすエレノアのお菓子作りと異世界スローライフ! ※場所が正道院で女性中心のお話です ※小説家になろう! カクヨムにも掲載中

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

処理中です...