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第36話

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「にゃ~みゃみゃ~。(なんて美味しいのぁ。毎日でも食べたいの。)」

 フワフワは満足気に笑みを浮かべて、「はふぅ~。」と幸せそうなため息をついた。

 ヒューレッドはフワフワのその表情を見て、次から同じものを要求されそうだと身構える。聖女マリルリから逃げている道中なのに、今のような離乳食を手に入れることは難しいだろう。

「ははっ。可愛いなぁ。なあ、ちょっと頭を撫でさせてもらってもいいかな?」

 職員の男性は右手をフワフワの顔の前に差し出した。そして、フワフワに触っていいか許可を求める。

「ふみゃ~?うみゅみゅみゅみゅ~。(う~ん。ヒュー以外に触って欲しくないけど美味しいご飯くれたしなぁ~。)」

 フワフワは小首を傾げて考え込む。知らない人に触られるのは好きではないのだ。しかし、目の前にいる男は自分に美味しいご飯をくれたので、フワフワは盛大に悩んだ。

「ダメ……かな?」

 職員の男性は寂し気に眉を下げた。

「ふみゃ。みゃ~ん。(美味しいご飯くれたから許すの!)」

「あ~。フワフワは頭を撫でてもいいよって言ってます。美味しいご飯をありがとうございます。」

「おおっ!!なんとっ!なんとっ!!ありがとう!ありがとう!!娘の離乳食を持ってきたかいがあったよ。ありがとう!」

 ヒューレッドがフワフワの言葉を伝えると、男は大げさなほど喜んだ。喜んで、フワフワを撫でようとフワフワの頭に手を伸ばす。

 バターーーーーンッ!!

「あんたっ!見つけたよ!娘の離乳食をどこにやったのかしらっ!!」

「げっ……。もうバレたのか……。」

 男がフワフワの頭を撫でようと手をのばした瞬間、小部屋のドアが勢いよく開かれ、ドアから赤ん坊を背負った女性が怒鳴り込んできた。

 男と女性の会話からするに、どうやらこの女性は男の妻のようである。

「もうバレたのかだって!バレないわけないわよね!だって、この子の離乳食よ。どうして勝手に持って行くのよ。返しなさい。今すぐ、返しなさいっ!!」

(ああ~。やっぱりぃ~~。)

 ヒューレッドは頭を抱えた。

 嫌な予感はしたのだ。フワフワが喜んでいたから特に突っ込まなかったけれども。娘の離乳食を持ってきたというところにヒューレッドは少し不安を覚えていたのだ。

「みゃぁ~?(食べちゃダメだったのぉ~?)」

 フワフワは女性の剣幕を見て不安気に一声鳴いた。

「んっ!?」

 フワフワの不安気な声が聞こえたのか物凄い剣幕で男を怒鳴っていた女性の視線が男からフワフワに移った。

「……もしかして、あんた……この可愛い子に離乳食を与えたのかしら?」

 女性は問いただすように男に確認した。

 

 


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