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第26話

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☆☆☆

 

「なぜ、ヒューレッド様は魔法を使わないのかしら。魔法を使えばすぐに居場所がわかるのに……。」

 聖女マリルリは自室で地団駄を踏んでいた。

 一週間経っても、ヒューレッドが魔法を使った形跡がないからだ。ヒューレッドのことはすぐに見つけられると思っていたマリルリの予想が外れたことに、マリルリは腹が立っていた。そうして、宮廷魔術師ともあろうヒューレッドが魔法を一切使わないという不自然なことに、マリルリは誰かがヒューレッドに入れ知恵をしたのではないかと勘ぐる。

「誰かが、ヒューレッド様に魔法を使わないようにと告げたのかしら?……いったい、誰が?」

 聖女マリルリが、特定の人物が魔法を使った際にどんな魔法を使ったのか、どこで使用したのかということがわかることを知っているのはごく一部の人間のみだ。

 誰かがマリルリを裏切っているという可能性に気づいて、ギリッと歯を食いしばった。

 マリルリは裏切りそうな人物を思い浮かべる。だが、該当するような人物は自分の側にはいない。

 唯一いるとすると……。

「まさか、彼女が?あり得ないわ。彼女とヒューレッド様との接点がまるでないわ。どうやってヒューレッド様に近づいたのかしら。」

 マリルリは唯一、自分の力を知っていて、マリルリに対して敵対心を抱いているだろう女性のことを思い浮かべる。

 それは、マリルリが聖女になる際に蹴落とした元聖女だ。

 血の気が通っていないのではないかと思うほど真っ白な肌を持ち、老婆のような真っ白の髪を持つ元聖女。マリルリと違って正統なる聖女であった元聖女だ。

 マリルリに追い出されてからどこに行ったのかは知らないが、目も見えないのだ。そのため、気軽に出歩くこともないと思われる。だから、ヒューレッドと知り合うはずがないのだ。

「彼女じゃないとしたら、一体誰が……?」

 マリルリは他にヒューレッドにアドバイスをしそうな面々を思い出そうとするが、まったく検討が付かなかった。

「……偶然、かしら?それとも、私に従うふりをして、裏切っている者がいるのかしら?裏切り者がいるのであれば早めにあぶりださないと危険ね。」

 マリルリは思う。裏切り者がいなければいいのに、と。そして、自分が聖女の座を追い落とした元聖女がヒューレッドに対して入れ知恵をしたのならいいのに。と。

「……気が乗らないけど、彼女に会って確かめた方がよさそうね。」

 いるかいないかわからない裏切り者をあぶりだすよりも、元聖女に確認した方が楽だと考えたマリルリは元聖女の居場所を探し出すことにしたのだった。

 だが、聖女マリルリは元聖女の魔力の形を知らない。いち早くマリルリの能力に気づいた元聖女が巧妙に隠したからだ。

 元聖女はマリルリよりも魔法に精通しており、さらにマリルリよりも魔力が多く知恵も回った。誰もが崇拝するような完璧な聖女だったのだ。気味の悪い肌や髪の色を除けば。

 

 

 


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