25 / 72
第25話
しおりを挟む「な、なにを、言っているんです、か?セレスティア様。ま、だ、まだフワフワは小さいんですよ。旅なんてそんな危険なこと……。」
驚きで声が上手く発生できなくなるヒューレッド。
「そうですね。フワフワは魔獣と言ってもまだ小さいです。まだまだ赤ちゃんです。でも、忘れていませんか?ヒューズさんはマリルリに追われているのですよね?」
セレスティアは小さく微笑みながらヒューレッドを諭してくる。
「確かにオレは、聖女マリルリ様に目をつけられています。でも、今のところなんのアクションもないようですし、まだここにいても……。」
「聖女マリルリはヒューレッドさんを探しています。日が経つにつれ、マリルリは力を入れてヒューレッドさんを探すことでしょう。今はまだヒューレッドさんが魔法を使うのではないかと思って待っているようですが、日が経つにつれ、自分から探しにでることでしょう。」
「そんな……。なんでオレなんかに……。ただ結婚を断っただけなのに……。」
結婚を断っただけなのに、執拗に追われる理由がヒューレッドにはわからない。
「マリルリは全て自分の思うままにことが運ばないと気が済まない性分です。断られたヒューレッドさんの存在が許せないのでしょう。それに、ヒューレッドさんは……。いえ、なんでもありません。フワフワとヒューレッドさんが会話を出来るようになったのであれば、そろそろここを出た方がいいかと思います。ここは王都からさほど離れておりません。追手が放たれればすぐに見つかってしまうことでしょう。」
セレスティアは、真剣な表情でヒューレッドに告げる。
セレスティアはヒューレッドには言っていなかったが、セレスティアが出かけていた目的は王都でマリルリがヒューレッドの捜索を開始しているかどうかを確認しにいったのだ。
その際、マリルリが兵を動員してヒューレッドを探そうとしているという話を聞いた。今のところ国王がヒューレッドの捜索に難航を示しているということだが、国王もマリルリには逆らえない。そのため、ヒューレッドの捜索隊が組まれるのも時間の問題だ。
捜索隊が組まれてから逃げたのでは遅い。
セレスティアもここでずっとヒューレッドを匿っているわけにはいかなかった。兵に囲まれてしまえばヒューレッドを逃がすことは難しい。転移の魔法を使うにも、兵に見つかってからではマリルリの魔力感知で追われてしまう可能性が非常に高い。
だから今決断しなければならない。
幸いにもヒューレッドとフワフワは会話をできるようになった。まだまだフワフワは赤子だが、魔獣の赤子は人間の赤子と違ってちょっとやそっとのことじゃ死なない。それに離乳食も食べれるようになったのだ。ミルクと違い離乳食なら旅の道中でもどうにでも手に入るだろう。動植物をかみ砕いて与えればよいのだから。
「今のうちに、私がヒューレッドさんを転移させます。とは言っても私の力だとヒューレッドさんとフワフワを100km先に転移させることしかできません。そこから先は自力で逃げ延びてください。でも、決して魔法を使用してはなりません。」
ヒューレッドの言葉を待たずにセレスティアは告げる。そして言うが早いか、転移魔法を唱え始める。
「ちょ、ちょっとセレスティア様っ!?」
展開の速さにヒューレッドはついていけず、セレスティアに質問を投げかけようとする。だが、それよりも早くセレスティアの転移魔法が発動した。
ヒューレッドの目の前がグニャグニャとうねりだす。転移魔法が発動したことをヒューレッドは感知した。
「セレスティア様っ!?」
ヒューレッドはセレスティアに向かって手を伸ばす。
「どうかお元気で。逃げ延びてください。……どうして私はここから離れられないのでしょう。どうかご無事で。ヒューレッドさん。」
ヒューレッドの耳にはセレスティアの言葉が最後まで聞き取ることができなかった。
そして数秒後には、セレスティアと暮らしていた森から離れた場所にヒューレッドは転移していたのだった。その手に大事そうにフワフワを抱きかかえて。
1
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
王太子が悪役令嬢ののろけ話ばかりするのでヒロインは困惑した
葉柚
恋愛
とある乙女ゲームの世界に転生してしまった乙女ゲームのヒロイン、アリーチェ。
メインヒーローの王太子を攻略しようとするんだけど………。
なんかこの王太子おかしい。
婚約者である悪役令嬢ののろけ話しかしないんだけど。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
ふしだらな悪役令嬢として公開処刑される直前に聖女覚醒、婚約破棄の破棄?ご冗談でしょ(笑)
青の雀
恋愛
病弱な公爵令嬢ビクトリアは、卒業式の日にロバート王太子殿下から婚約破棄されてしまう。病弱なためあまり学園に行っていなかったことを男と浮気していたせいだ。おまけに王太子の浮気相手の令嬢を虐めていたとさえも、と勝手に冤罪を吹っかけられ、断罪されてしまいます。
父のストロベリー公爵は、王家に冤罪だと掛け合うものの、公開処刑の日時が決まる。
断頭台に引きずり出されたビクトリアは、最後に神に祈りを捧げます。
ビクトリアの身体から突然、黄金色の光が放たれ、苛立っていた観衆は穏やかな気持ちに変わっていく。
慌てた王家は、処刑を取りやめにするが……という話にする予定です。
お気づきになられている方もいらっしゃるかと存じますが
この小説は、同じ世界観で
1.みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について
2.婚約破棄された悪役令嬢は女神様!? 開国の祖を追放した国は滅びの道まっしぐら
3.転生者のヒロインを虐めた悪役令嬢は聖女様!? 国外追放の罪を許してやるからと言っても後の祭りです。
全部、話として続いています。ひとつずつ読んでいただいても、わかるようにはしています。
続編というのか?スピンオフというのかは、わかりません。
本来は、章として区切るべきだったとは、思います。
コンテンツを分けずに章として連載することにしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる