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第16話
しおりを挟む「はい。じゃあ、フワフワにご飯をあげてみましょうね!」
セレスティアはそう言いながら手に持った小さい器と布切れをヒューレッドに渡してきた。まだまだ小さい猫の魔獣の赤ちゃんはお乳を飲む。だけど、猫の魔獣のお乳はなかなか手に入らないので、セレスティアの家の裏庭で飼っている山羊のミルクをフワフワに与えている。
人肌程度に温めた山羊のミルクを布に浸してフワフワの口元に持って行くのだ。そうすると、フワフワが小さな口でミルクがついた布にちゅぱちゅぱと吸い付く。まだ歯が生えていない口は布を噛み切ることもないので、安心だ。これが、もう少し大きくなってくると歯が生えてくるので布に噛みついてしまい間違えて布を食べてしまうことがあるので注意するようにと、ヒューレッドはセレスティアから注意を受けた。
「オレが、ミルクをあげるのか?」
「そうよ!ヒューレッドがフワフワを育てるのよ。その方がより絆が強くなってフワフワも強くなるわ。」
「ん。まあ、ミルク飲んでる姿可愛いけど、小さすぎて潰してしまわないか心配だな。」
ヒューレッドは片手でフワフワを抱き上げると、フワフワの小さな口にミルクを少しずつ運ぶ。布につくミルクは少量なので何度も何度もフワフワの口元に運ばなくてはならないから結構大変だ。
もしもヒューレッドが人間の赤子を育てたことがあるのであれば、ここで気づいただろう。哺乳瓶という画期的なアイテムがあることに。だが、悲しいかなヒューレッドは魔獣の赤子を育てたことも人間の赤子を育てたこともなかった。ゆえに哺乳瓶という便利なアイテムがあるということを知らなかった。
時間をかけてゆっくりとフワフワにミルクを与えると、ヒョイッとセレスティアがフワフワを取り上げた。そして、フワフワのお腹を軽くさすってやる。
「けぷっ。」
フワフワの口から小さな声が漏れた。
「ご飯を食べたあとは、こうしてゲップをさせてあげてね。」
「あ……はい。」
ゲップをするフワフワも可愛いとヒューレッドは思いながらセレスティアの言葉に頷いた。
フワフワはお腹がいっぱいになって満足したのか、目をとろんとさせる。どうやら眠くなってきたようだ。
「猫の魔獣の赤ちゃんはたくさん眠るから、もう眠くなっちゃったのね。少し寝かせてあげましょうか。この子が目覚めたらまたミルクをあげなきゃいけないから覚えておいてね。」
ヒューレッドは眠そうなフワフワをセレスティアから受け取った。
眠くて仕方の無いフワフワはくてっと身体から力を抜いている。そのため、とてもぐにゃぐにゃしているようにヒューレッドは思った。ぐにゃぐにゃしているので、少しでも力をいれたら潰れてしまうのではないかと怖くなる。
「フワフワはまだ赤ちゃんだから、体温の調節があまり上手にできないの。だから、ヒューレッド様。フワフワが寝ている間はヒューレッド様の体温で温めてあげてくださいね。フワフワが寝ている間に私は植物たちの手入れをしてきます。ヒューレッド様はフワフワと一緒にいてあげてくださいね。」
「えっ!?」
言うが早いかセレスティアはヒューレッドにフワフワの世話を頼むと、ヒューレッドの返事も聞かずに外に出て行ってしまった。
残されたヒューレッドは手の中にいるフワフワとセレスティアが出て行ったドアを交互に見つめて戸惑った。体温でフワフワを温めておくとはどうすればいいのかと、手の中の小さな命を見つめて途方にくれるのであった。
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