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第10話

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「おまえ、こんなところでどうしたんだ?」

 ヒューレッドは猫の魔獣に問いかける。この森に猫の魔獣は確かに生息している。だが、猫の魔獣は警戒心が強くなかなか人前に出てこないのだ。出てきたとしても、すぐに隠れてしまうほど警戒心が強い。
 それなのに、ヒューレッドの目の前にいる猫の魔獣は逃げることなく、ヒューレッドにひっついている。よほど、白蛇が怖かったのだろうか。
 だが、ヒューレッドは知っている。猫の魔獣は蛇を怖がることはないことを。逆に、しゅるしゅると地を這うように動く尻尾に、好奇心をくすぐられるのか積極的に蛇を捕まえようとすることを。

「にゃぁう……。」

 猫の魔獣はヒューレッドの言葉がわかるのか、ヒューレッドが問いかけるとシュンッと頭をうなだれて、尻尾をくるんっと足の間に隠すように丸めた。その様子は、落ち込んでいるように見えた。

「仲間とはぐれたのか?」

 猫の魔獣は基本的に一匹で行動していることが多いが、時折複数で行動していることがある。その場合、とても仲の良い場合が多い。ゆえに、離ればなれになるととても悲しむということがわかっている。
 ヒューレッドは猫の魔獣も仲間と離れてしまって寂しがっているのかと思って確認してみたが、「みゃーん。」と鳴いて首を横に大きく振った。
 どうやら、仲間とはぐれたわけではないらしい。
 それならばどうしたことかと、ヒューレッドは頭を悩ませた。
 すると、猫の魔獣はぴょいっとヒューレッドの肩から飛び降りると、ヒューレッドに向かって一声鳴くと、そのまま森の奥にすたすたと歩いて行く。
 急に態度をかえて歩いて行く猫の魔獣に呆然としていると、猫の魔獣がしばらく歩いたところで足を止めると、ヒューレッドの方を振り返って「にゃあ。」と一声鳴いた。

「ついてこいって言っているのか?」

 猫の魔獣の仕草からヒューレッドについてきて欲しそうに思えて、ヒューレッドは猫の魔獣の後を追う。すると、猫の魔獣はまた前を向いて歩き出す。そして、時折後ろを振り返ってヒューレッドがついてきているのか確認するように視線を向ける。
 そのまま歩くこと数十分。いつの間にかヒューレッドと猫の魔獣は森から抜け出しており、王都の外れまで来ていた。方角的には王宮から東の方向であり、ヒューレッドが向かおうと思っていたイーストシティ共和国に向かう方角だ。

「もしかして、おまえオレを導いてくれるのか?」

「にゃあ。」

 まるでヒューレッドが行く先を示すかのような猫の魔獣の行動に、ヒューレッドは半信半疑に思いながら問いかけると、猫の魔獣からは「もちろん!」というような張り切った鳴き声が返ってきた。


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