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第29話
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「旦那様は、変わりましたね。」
「ええ。とても変わってしまわれました。」
ユフィリアとルードヴィッヒが離れに行ってしまって、残されたユーフェとライラは遠くを見つめながら呟いた。
二人ともユフィリアがコンフィチュール家に来る前のルードヴィッヒのことを知っている。ライラはまだコンフィチュール家の使用人として仕えている期間は浅いが、ユフィリアよりもコンフィチュール家にいる期間は長い。
ユーフェについては言わずもがなだ。
「旦那様は昔から猫がとてもお好きな人でした。」
「はい。ミーア様を保護してからというもの離れでミーア様につきっきりでしたよね。」
「それに、旦那様は人間の女性には見向きをされない方かと思っていたわ。」
ユーフェは大きなため息を吐いた。
ユーフェが見てきたルードヴィッヒは猫が第一、次に領地経営、領民。人間の女性には見向きもしない人だった。
ルードヴィッヒの地位に惹かれてやってきた令嬢は一人や二人ではない。だが、ルードヴィッヒはその令嬢たちを見向きもしなかったのだ。
だから、ユーフェは勘違いをしたのだ。
ルードヴィッヒがコンフィチュール家のことでユーフェを頼ったから、自分こそがルードヴィッヒの特別なのだと。
「美しい令嬢にも、令嬢の後ろ盾も、令嬢が持つ多額の金銭にも旦那様は見向きもしなかった。」
「そのようですね。」
「だから、とてもびっくりしているのよ。奥様が猫が好きだと知ってからの旦那様の変わりようが。」
ユーフェはグッと手を握りしめた。
ルードヴィッヒは変わった。ユフィリアが猫が好きだと知ってからユフィリアに目を向けるようになった。そしていつの間にか、ユフィリアにぴったりと寄り添うようになってしまった。結婚してから数週間という短期間に、だ。
「そうですね。ミーア様とのことも、ミーア様のことを気遣って奥様を近寄らせなかったのに、今はミーア様と奥様が仲良くなれるようにと間を取り持とうとしていますね。」
「そうね。びっくりしたわ。旦那様のミーア様至上主義は変わらないと思っていたのに。……私も猫が好きだと旦那様に言っていたら何か変わったのかしらね。」
ユーフェはポツリと呟いた。
ユフィリアよりもルードヴィッヒの傍に居たのはユーフェなのだ。もし、ユーフェが猫が好きだとルードヴィッヒに言っていたら、今よりもずっとルードヴィッヒの傍にいれたのだろうかと考えてしまう。
「変わらないと思いますよ。それに、ユーフェさんは奥様みたいに猫のことを大事になさいますか?奥様は旦那様とためを張るくらいの猫馬鹿でいらっしゃいます。走っている馬車の中から助けを呼ぶ仔猫の鳴き声が聞こえたというのですよ。奥様は。どんな聴力をしているのでしょうって話ですよ。でも、私はそんな猫に対して一生懸命な奥様が好きです。」
ライラは今まで以上に力を込めていった。
思い返せば、ユフィリアはルードヴィッヒと同じくらい猫が好きなようだった。
仔猫のこともとても大切に育てようとしている。
「最初から私に勝ち目なんてなかったのね。」
ライラの言葉を聞いてユーフェはそっと目を閉じた。
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