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第27話
しおりを挟む「ご、ごほんっ。つまり、ユーフェ。申し訳ないが私は、そのユーフェのことをそのようには思ってはいない。理解してくれるか?」
ルードヴィッヒ様は咳払いをしてユーフェに告げる。
ルードヴィッヒ様の顔は真っ赤に染まっていた。
私の頬もルードヴィッヒ様と同じく赤く染まる。
「ええ。ええ。理解いたしました。旦那様は奥様が特別なのでございましょうね。私、今まで旦那様のそんなに嬉しそうにしている姿を見たことはございませんでした。いつも一線を引いているようで……。私の勘違いだということが身にしみてわかりました。」
ユーフェは疲れたように笑う。
理解、してくれたようだ。
「ありがとう。これからは誠心誠意ユフィリアに仕えてくれるかい?」
ルードヴィッヒ様はユーフェに確認する。
ルードヴィッヒ様はとてもお優しい。ユーフェを許すようだ。
もとよりユーフェには酷い意地悪はされていない。ミーア様のことを隠すような素振りをしたり、私から仔猫ちゃんを取り上げようとしただけ。それも、無理矢理取り上げようとしたのではなく、あくまで私に許可を求めた。私が拒否をすれば良いだけのことだった。
いじめらしいいじめは受けていない。
ただ、使用人としては少し行き過ぎていたけれど。
「……旦那様。旦那様はとても酷いお人ですね。仮にもユフィリア様は恋敵なのに。そのユフィリア様に誠心誠意仕えるようにとは。」
ユーフェは困ったように微笑んだ。ユーフェは今にも泣き崩れそうだ。
確かに自分が好きな人の奥さんに誠心誠意仕えよというのは酷だろう。
「そうだね。確かにユーフェにとっては酷かもしれない。でも、ユーフェのことは信頼しているんだ。きっとユーフェだったらユフィリアのことをこのコンフィチュール辺境伯の奥方として相応しい装いにしてくれると思っている。まあ、今でもユフィリアは辺境伯婦人に相応しいけれども。これからはユフィリアには辺境伯婦人としての貫禄も出していってもらわないといけないからね。」
「……旦那様はユフィリア様のために私に奥様に仕えろと申すのですね。どこまでも残酷な旦那様です。」
「そうだね。ユフィリアの為だったら私はなんでもするよ。」
「……私がまた、奥様に害をなすとは思わないのでしょうか?」
「私がそれを許さないから問題ない。」
「……わかりました。」
ユーフェは渋々と頷いた。ルードヴィッヒ様は首を縦に数度振る。
「うん。よろしくね。ユーフェ。今度、ユフィリアの為にならないことをしようとしたら、減給だからね。ああ、今回のことで侍女長からは降格とするよ。侍女長には……ライラを任命しようと思う。」
「えええっ!?わ、私ですかっ!!」
「ライラ、ですか……?」
「えっ。ライラを侍女長にだなんて、ルードヴィッヒ様、正気なんですの?」
突然のルードヴィッヒ様のライラを侍女長にするという発言に、ライラはもちろんユーフェと私も驚きの声を上げた。
ライラは確かに私によく仕えてくれている。まだ、一緒にいる期間は短いけれど、一生懸命私のために仕えてくれているのは感じている。
けれど、ライラはまだ若い。侍女長として振る舞うにはまだお屋敷のこともほとんど知らないのではないかと思う。
「そうだ。ユーフェはライラを一人前の侍女長に育て上げる必要があるんだ。大変だぞ。ユーフェはユフィリアとライラの二人と、コンフィチュール家のために最善を尽くすんだ。」
ルードヴィッヒ様はそう言って頷く。
確かにコンフィチュール家のことを熟知しているユーフェがライラに教えを説けば大抵のことはなんとでもなるだろう。ライラの忠誠心は本物だと思うし。
けれど、ユーフェがまた嘘を言い出したら?必要なことを隠していたら?
「もちろん。コンフィチュール家のためにならないことをユーフェがすれば減給とする。場合によってはもっと重い処分も考えるからね。」
「……承知いたしました。」
ユーフェはまだ何か言いたそうだったが、そこをグッと耐えて頷いた。
今まで下に見ていた侍女のライラを今度は侍女長として支えていかなければならないのはユーフェにとっても屈辱だろう。だからと言って、必要なことをライラに教えなければ、ユーフェは罰を受ける。
本当に旦那様は容赦が無い。
「……みゃーあ。」
ユーフェのことがまとまったところで、タイミング良く手の中の仔猫が鳴いた。
時計を見ればあれから2時間は経っていた。随分と長話をしていたようだ。
そろそろお腹が空いたのだろう。
「ご飯の時間かしら。料理長からミルクをもらってこないとね。」
私は仔猫を抱きしめて立ち上がる。
「待って。ユーフェにお願いしてみようか?」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
ルードヴィッヒ様の発言に私たちは驚きを隠せなかった。
「だって、ユーフェはユフィリアに言ったんでしょ?仔猫ちゃんの面倒を見るって。一度ミルクをあげて、下のお世話をしてみるといいよ。出来ないのに仔猫ちゃんの世話をするだなんて言ってないよね?」
ルードヴィッヒ様はそう言ってにっこりと微笑んだ。その笑みが真っ黒に見えたのは私だけだろうか。
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