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第20話
しおりを挟む「ルードヴィッヒ様。あの子の様子はいかがでしょうか?」
ミーア様に預けた仔猫の様子が気になり、私は毎日のように離れに通っては状況を確認する。
私はまだミーア様に気を許してもらえず、部屋の中に入ることをミーア様から許可されてはいなかった。
「やあ、ユフィリア。いらっしゃい。今のところは、ミーアがちゃんとにあの子のことを面倒見ているよ。」
「そうですか。よかったわ。」
「そうだね。やはり仔猫ちゃんの免疫を高めるためにもミーアのお乳は必要だからね。私たちは仔猫ちゃんのお世話を出来ても、仔猫ちゃんの免疫を高めることはどうしても難しいからね。」
ルードヴィッヒ様はそう言いながらどこか疲れたように微笑んだ。
そう言えば、ルードヴィッヒ様の目元に薄っすらと……どころかはっきりと隈がある。それに、顔色も青白いような気がする。足元も、どこかふらついているようにも見える。
「……ルードヴィッヒ様?寝てらっしゃいますか?」
心配になって問いかければ、
「寝てはいられないよ。だって、あの仔猫ちゃんはミーアの子供ではないからね。いつミーアがお世話を放棄するかわらかないから、寝てなんていられないよ。」
そう言ってルードヴィッヒ様は苦笑した。
私ったら、離れに入れないことをいいことにすっかり仔猫の世話をミーア様とルードヴィッヒ様に押し付けてしまっていたわ。
「ルードヴィッヒ様。寝てください。あの子は一日中ミーア様にお世話をしてもらわなくても大丈夫だと思います。一日に数回だけミーア様にお乳を別けてもらえれば免疫はつくと思います。違いますか?」
断じて可愛い仔猫をルードヴィッヒ様に独り占めされている状況が気にくわないわけではない。私だけ仔猫の世話から外されているような気がして寂しいという気持ちはあるけれど。
「それは、そうだね。でも、そうしたらその分誰かが仔猫ちゃんにミルクを与えて、排泄物の処理をしなければならないよ?」
「私がやります。だから、ルードヴィッヒ様は寝てください。ミーア様だって自分の子供たちだけならお世話を放棄なさることはないでしょう?」
「それはそうだけど……。2時間ごとにミルクを与えて、排泄物の処理をするんだよ?」
「ええ。私にもできるのではないかと思います。」
仔猫へのミルクの与え方も、排泄物の処理の仕方もナーガさんに一通り教えてもらっている。
「だが、想像と実践では全然違う。仔猫ちゃんは玩具ではないんだよ?たった一つの命なんだ。」
ルードヴィッヒ様はとても真剣な目をして私を見つめながら諭してくる。
ルードヴィッヒ様からは私には仔猫のお世話なんて無理だろうという思いがひしひしと伝わってきた。
私のことを何も知らないルードヴィッヒ様にそう思われるのはとても嫌だった。
確かに、尊い命を一つ私が預かることになる。その責任は重大だ。
「わかっております。私よりも、猫ちゃんに詳しいルードヴィッヒ様がミーア様と一緒に仔猫の面倒を見るのが一番いいのはわかっております。ですが、このままではルードヴィッヒ様が倒れてしまいますわ。それに、私だってこの子が大事なのです。責任をもってお世話をいたしますわ。」
私だって、ちゃんとに仔猫のお世話を出来るということをルードヴィッヒ様に知らしめてあげるわ。
私のことをただの貴族の令嬢だと侮らないでほしい。
「……わかった。でも、仔猫ちゃんのお世話は本当に大変なんだ。ミルクをあげて排泄物の処理をして、それに保温もしないといけない。まだまだこの子は赤ちゃんだからね。自分で体温を保てないんだ。」
「この子から目を離せないということはわかっております。覚悟しておりますわ。」
「……自分の時間なんて取れないと思ってくれ。」
「ええ。もとより保護猫施設に猫ちゃんたちのお世話に行くくらいしかしておりませんもの。大丈夫ですわ。」
「わかった。だが、ダメだと思ったらすぐに言うんだよ。プライドよりも助けを求めることが優先だ。」
「……わかっております。」
ルードヴィッヒ様の言い方だと私が意地を張ってこの子に何かあっても自分でなんとかしようとして悪化させると思っているらしい。心外だ。
この子のためなら私はプライドだって投げ捨てて見せるのだから。
「そう。じゃあ、仔猫ちゃんのことを君に任せるよ。試すようなことを聞いてすまないね。」
「いいえ。大切な命を預かるのですもの。ルードヴィッヒ様が心配なされるのも無理はありませんわ。」
私はこうして昼間の間だけ仔猫の世話をすることになったのだった。
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