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第8話
しおりを挟む「や、やあ。ユフィリア嬢。き、君は猫が好きなのかい?」
ルードヴィッヒ様はとても急いで来たようで息が弾んでいる。
それにしても、結婚したというのに「嬢」と言われるのはなにかおかしい。
「私はルードヴィッヒ様と結婚したのです。ですから「嬢」と言われるのはおかしいと思いますわ。どうぞ、ユフィリアとお呼びくださいませ。」
にっこりと笑みを貼り付けて深くお辞儀をする。
嫌味をたっぷりと込めたのだけれども、ルードヴィッヒ様には伝わるかしら。
それにしても、先ほどルードヴィッヒ様と話をしたいと言った際には忙しいと断ってきたのに、私が出かけるとなったらすぐに駆け付けるとはいったいどういうことかしら。
「あ、ああ。す、すまない。それで、君は……猫が好きなのかい?」
「……自室に迎え入れたいと思うくらいには好ましく思っております。」
駆け付けたためかほんのりと頬を上気させているルードヴィッヒ様はとても色気があった。
元々容姿は整っているのだから頬を染めたりなんてしたら女性が黙っていないだろう。
現に、ライラはルードヴィッヒ様を見てぽぉーっと顔を赤らめている。ライラの場合は侍女としての教育が行き届いていないような気がするけど。
「そうか。それはとてもいいことだ。ああ、君を早く離れに案内したいよ。」
「……離れに行きたいと申し上げた時に話を先延ばしにされたのですが……?」
「そうだね。今はミーアがとっても大変な時期だからね。ミーアは少々気が立っているんだよ。子供たちのことを必死に守ろうとしているんだろうね。だから、知らない人やミーアが懐いていない人が来るとミーアが怒ってしまってね。だから、もう少し待ってほしいんだ。きっと、君もミーアもミーアの子供たちも気に入ると思うから。本当は今すぐにでも会わせたいんだよ。小さい時は一瞬だからね。こんなに可愛いミーアの赤ちゃんを君にも見せたいし、君と思いを共有したいと思っているよ。」
「…………。」
いきなりどうしたというのだろうか。
ルードヴィッヒ様はとても寡黙な方だと思っていたのだが、違ったのだろうか。
今までの記憶の中で一番、ルードヴィッヒ様と会話をしているような気がする。
「ほんとは、私も君と一緒に保護猫施設に行きたいんだけどね。すまない。今はまだミーアと子供たちと離れることができないんだ。でも、もし猫をお迎えしたら教えてほしい。私にも是非見せて欲しい。……ああ、ダメか。他の猫の匂いをつけて帰ったらミーアに怒られてしまうな。うぅ。君がどんな猫をお迎えするのかわからないけれど、なにかあればすぐに私に言うといい。力になるからね。」
ルードヴィッヒ様は私の両手をギュッと握る。
そう言えば、結婚式のときもルードヴィッヒ様とは手すら繋がなかった。
私は繋がれた手をジッと見つめた。
「あっ!す、すまない。つい嬉しくなって君の手を握ってしまった。許して欲しい。」
「え、ええ。ルードヴィッヒ様はわ、わたくしの……だ、旦那様なのですもの。手くらいいくらでも……。」
うぅ……。なんだろう。ルードヴィッヒ様の色気がすごい。
寡黙なルードヴィッヒ様も素敵だったけれど、こうして嬉しそうに笑っているルードヴィッヒ様の破壊力といったらたまらないものがある。
思わず耳まで赤くなってしまう。
「そ、そうだったね。君は私の妻だった。うん。落ち着いたらいっぱい話そう。君といっぱい話がしたいんだ。」
「は、はい……。」
いったいルードヴィッヒ様はどうしたというのだろうか。
今まで私に興味すらなかったというのに。
「さあ。保護猫施設に行っておいで。気を付けるんだよ。迎え入れたい猫がいたら2匹でも3匹でも好きなだけ迎え入れていいからね。」
「え、ええ。」
「私はそろそろミーアのところに戻るよ。帰ってきたら侍女を通して連絡してくれ。」
「わ、わかったわ。」
急に態度が変わったルードヴィッヒ様を不審に思いながらも、私はライラと一緒に馬車で保護猫施設に向かうのであった。
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