夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします

葉柚

文字の大きさ
上 下
6 / 31

第6話

しおりを挟む




「お話し中のところ大変申し訳ございません。」

 ルードヴィッヒ様からの回答を待っていると、侍女頭のユーフェが割り込んできた。
 私たちの会話に割り込んでくるということはよほどのことなのだろうか。
 
「どうしたんだ?」

 ルードヴィッヒ様は無表情のまま、ユーフェを振り返る。

「あの……ミーア様が……。」

 ユーフェは私の顔色を伺うように見てから、ルードヴィッヒ様に耳打ちする。
 ユーフェの言葉を聞いてルードヴィッヒ様は慌てたような表情を浮かべた。
 
「……わかった。すぐに行く。話の途中ですまない。……ユフィリア様。話の続きはまた後日ということでよろしいでしょうか。」

「……ええ。構いませんわ。」

 本当は嫌だと言いたい。今ここで話の続きをしたいと言いたい。
 だけれども、ルードヴィッヒ様はとても焦っているように見えた。普段、ルードヴィッヒ様はあまり表情を変えないのに。それほどの緊急事態が発生したということだ。
 「ミーア様」というのが気になるところだが。

「ありがとうございます。ユーフェ。すぐに向かう。」

「はい。旦那様。」

 ルードヴィッヒ様は、ユーフェを連れて離れに足早に向かっていってしまった。






☆☆☆☆☆



「ねえ、ライラ。ルードヴィッヒ様はあなたから見てどんな人に見えるかしら?」

 ルードヴィッヒ様と結婚してから一週間。
 未だにルードヴィッヒ様が住んでいらっしゃる離れに行く許可がおりない。
 許可が下りないというよりあれからルードヴィッヒ様と会話をする時間が取れていない。いつも「忙しいから、また後で。」という言葉でかわされてしまう。
 
「とてもお優しくて誠実なお方だと思います。」

 ライラは澱むことなくはっきりと告げる。
 まあ、コンフィチュール辺境伯邸の侍女なので主人のことを悪く言うようなことはないとは思うけれど。
 私はちょっと意地悪心を出してライラに尋ねてみることにした。
 
「結婚したばかりの妻を放っておいても誠実だと言うのかしら?」

「そ、それはっ……。ルードヴィッヒ様はとてもお忙しく……その、今はミーア様が大変な時期なのでそちらにつきっきりでして……。」

 ライラは私の言葉に慌てふためく。
 ミーア様、ミーア様、ミーア様。
 どうやらルードヴィッヒ様は私よりもミーア様とやらが大事らしい。結婚したばかりの妻などお飾りとでも言いたいのかしら。
 
「……そう。ルードヴィッヒ様の大切なミーア様に何があったのかしら?」

「そ、それは……そのっ……。」

 私の問いかけにライラは焦りだす。
 きっとルードヴィッヒ様からミーア様の話題を出すなと言われているのだろう。
 
「……ライラ。大丈夫です。旦那様から、ミーア様のことをお伝えしても良いという許可を得ております。」

 ライラの様子を見かねて、通りかかったユーフェが助け舟を出す。
 以外にも、ミーア様について教えてくれるようだった。
 ルードヴィッヒ様はミーア様との親密さを侍女を通して私に教えることで私が辺境伯邸を出ていくことを望んでいるのかしら。
 
「それでしたら……。先日、ミーア様が初めての出産をされたのです。それも可愛い五つ子なんです。今、ミーア様は慣れない子育てに奮闘しております。旦那様は子育てで忙しいミーア様のお世話をなさっていらっしゃいます。」

「えっ……。」

 ライラの思いがけない言葉に私は耳を疑った。
 てっきり、病気か怪我でもしているのかと思ったら、出産ですと……?
 ルードヴィッヒ様がつきっきりでお世話をしているということは、旦那様とミーア様のお子ということでしょうか。
 
「……それは、知りませんでした。ルードヴィッヒ様がお世話に夢中になるなんて、さぞかし可愛いのでしょうね。」

 結婚したばかりの相手にすでに子供がいるなんて、とてもショックな出来事なのに私の口は言葉を紡ぎだす。
 
「はい。とっても可愛いんですよ。まだとっても小さくて少しでも力をこめたら握りつぶしてしまいそうなほどなんです。ふにゃふにゃだし。それでも、やっと目が開いたんですよ。まあるいキラキラとした瞳がとても可愛くて。ミーア様も赤ちゃんんたちのことが可愛いんでしょうね。母親になり立てだからなのか、気が立っていて。なかなか私たち侍女には赤ちゃんを触らせてくれないんです。旦那様に対してはミーア様も信頼しているようで、触らせてあげているみたいですけど。2時間ごとにミルクをあげたり、下のお世話をしたりでなかなか大変なんですよ。奥様も一目見たらあの子たちの虜になってしまいますよ。」

 ライラが五つ子の可愛さを語りたいとばかりに、にこにこ笑いながら話しかけてくる。
 使用人としては少し話し過ぎなような気はするけれど、それよりもミーア様の出産をこの屋敷の何人もの人間が知っていることに驚く。
 
「……そうね、ルードヴィッヒ様のご許可が得られれば私もミーア様と赤ちゃんたちに会いたいわ。」

 思ってもいない言葉を口にする。
 でも、侍女たちがミーア様の出産を喜んでいるのに私が喜ばないわけにはいかないじゃない。
 心が狭いとは思われたくないもの。
 
「ええ。奥様がミーア様たちのことを受け入れてくだされば旦那様もとてもお喜びになると思います。」

 ライラはそう言うが、簡単に愛人とその子供たちのことを受け入れることなんて私にはできない。
 少し時間が欲しい。
 ルードヴィッヒ様に愛人がいたこともだけれども、さらに子供がいて、使用人たちにも愛人と子供たちが受け入れられているような状況で私の心は疲弊していた。
 
 癒しが欲しい。
 ルードヴィッヒ様のお心はもう良いから、私を癒してくれる存在が欲しい。
 ああ、そうだ。
 マーマレード伯爵邸では飼うことを許されなかった猫を飼うというのはどうだろうか。
 愛らしい容姿に、態度。優雅な仕草。
 きっとどれもが私を癒してくれるに違いない。
 
 ルードヴィッヒ様が愛人を離れに囲っていて、私に見向きもなされないのだもの。
 猫を飼うくらいはいいですわよね。
 決めた。誰が何と言おうとも私は猫を飼うんだから。


しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき@バカふり200万部突破
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

はずれの聖女

おこめ
恋愛
この国に二人いる聖女。 一人は見目麗しく誰にでも優しいとされるリーア、もう一人は地味な容姿のせいで影で『はずれ』と呼ばれているシルク。 シルクは一部の人達から蔑まれており、軽く扱われている。 『はずれ』のシルクにも優しく接してくれる騎士団長のアーノルドにシルクは心を奪われており、日常で共に過ごせる時間を満喫していた。 だがある日、アーノルドに想い人がいると知り…… しかもその相手がもう一人の聖女であるリーアだと知りショックを受ける最中、更に心を傷付ける事態に見舞われる。 なんやかんやでさらっとハッピーエンドです。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜

よどら文鳥
恋愛
 伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。  二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。  だがある日。  王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。  ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。  レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。  ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。  もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。  そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。  だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。  それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……? ※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。 ※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ
恋愛
伯爵家の次女であるリネ・ティファスには眉目秀麗な婚約者がいる。 私の婚約者である侯爵令息のデイリ・シンス様は、未亡人になって実家に帰ってきた私の姉をいつだって優先する。 彼の姉でなく、私の姉なのにだ。 両親も姉を溺愛して、姉を優先させる。 そんなある日、デイリ様は彼の友人が主催する個人的なパーティーで私に婚約破棄を申し出てきた。 寄り添うデイリ様とお姉様。 幸せそうな二人を見た私は、涙をこらえて笑顔で婚約破棄を受け入れた。 その日から、学園では馬鹿にされ悪口を言われるようになる。 そんな私を助けてくれたのは、ティファス家やシンス家の商売上の得意先でもあるニーソン公爵家の嫡男、エディ様だった。 ※マイナス思考のヒロインが周りの優しさに触れて少しずつ強くなっていくお話です。 ※相変わらず設定ゆるゆるのご都合主義です。 ※誤字脱字、気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません!

処理中です...