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第一章

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ヒロインちゃんの後をついていくと、ヒロインちゃんは中庭のベンチに座って、肩を震わせてうつむいていた。

声をかけるのも躊躇われるほど、落ち込んでいるのがみていてわかる。



声をかけるか、かけまいかと悩んでいると、ブツブツと、ヒロインちゃんが呟いている声が聞こえてきた。



「・・・どうして・・・私・・・悪役令嬢・・・ざまぁ・・・れちゃう。そんなの・・・そんなの嫌ッ。どうしたら・・・」



ん?

なんか、意外な台詞が聞こえてきたような。

ヒロインちゃん何かに怖がっている?

そういえば、乙女ゲームものの対として、悪役令嬢がざまぁする話が流行っていたことを思い出した。

ヒロインちゃんは、この世界が悪役令嬢ものだと思っているのかもしれない。だから、今から必死なのかもしれない。

自分がざまぁされないように。



「アンナ嬢。ここは、現実です。ゲームの世界でも、ネット上の小説の中でもありません。ここは、現実なんです。」



ヒロインちゃんの前に屈みこんで、そっとヒロインちゃんの手を包む。



「っ!!アンタに何がわかるのっ!?あんたはざまぁする立場だからいいかもしんないけど、私はざまぁされる立場なのよ!!」



睨み付けながら言うけれども、泣き張らした目で言われてもあまり効果はない。

そうか、不安だったのね。

ヒロインちゃんは。



「乙女ゲームの世界では私が断罪されるのよ?私も怖いのよ。知ってる?」



「でも、アンタは攻略対象に好かれてるんじゃん。このままいったら私がざまぁされる。それが嫌で早めに学園に通えるように頑張って、いろいろと調整していたのに。」



「好かれたくて、好かれたわけじゃないわ。彼らに対して私がなにかをしたって訳でもないし。私はただ、猫様たちを愛でていただけ。猫様たちはいいわよ。言葉は通じないけれど、あの子たちは心を開けば私たちに寄り添ってくれる。優しくその存在で癒してくれる。言葉はないけど、態度でとても慰められるわ。

だから、あなたも猫様たちに優しくしてみて、きっと猫様たちは想いを返してくれるわ」



「でも・・・どうして仲良くしたらいいのか分からないわ。それに、強制力が働いたらと思うと怖くないの?」



「怖いわ。でも、逃げてばかりじゃいられない。精一杯生きなきゃ。生きて、幸せをつかまなければ」



現実だと気づいて。

ここが現実だと認識して。

そして、一緒に、



「一緒に断罪もされない、ざまぁもされない世界を目指しましょう。」



一生懸命生きてみよう。



「っ・・・うん」



小さいながらも、確かに頷いた。

泣き止んでもいるようだ。

よかった。



「涙を拭いて。目が赤くなってしまうから擦らないでね。冷やしていなさい。」



制服のポケットから洗ったばかりのハンカチを取りだし、ヒロインちゃんに手渡す。

ヒロインちゃんはそれをそっと受け取り、目に当てる。



「・・・ありがと。私も頑張ってみる。でも、猫たちにどうして接したらいいかわからないの。・・・教えてくれる?」



「ええ。もちろん。」



私たちは約束を交わし、それから乙女ゲームが開始される15歳になった。







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