韋駄天の運び屋

すのもとまさお

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説得

説得 ジン視点

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「はぁ・・・」
僕は教会の階段でひとしきり落ち込んだ後、”暴飲食い倒れ亭”へ向かった。
ここは食堂兼酒場なのだが、ここで食事をしに向かっているわけではない。

実は僕の現在の仕事場だったりする。
ここは夫婦で切り盛りしていて、僕は小さいころからお世話になっている。

祖父母が亡くなった時、一番心配してくれたのがここのおばさんだ。

おばさんは僕に仕事を与えてくれた。
そのおかげで生活費も稼げてるし、何より、祖父母が亡くなった傷を癒すことが出来た。
・・・・っというより、悲しんでる余裕なんて無いほど忙しくさせられたんだけど・・・

おばさんは僕が冒険者になることを反対していた。
その理由は、僕はへなちょこだからだ。

「あたしゃね!!あんたみたいな”へなちょこ”が冒険者になるのは反対なんだよ!!」
なんてよく言われてた。

口は悪いけど、僕の事を心配してくれての言葉だ。
・・・・・・・・・・・・・・たぶん・・・・・・・

さっき受けた女神の儀式でギフトさえ良いものを授かれば良かったんだけど・・・
僕が授かったのは「韋駄天」という素早さがちょっと上がるギフト。
こんなんでもレアギフトだから驚きだ。

・・・・どうせレアギフトをくれるなら鬼神とか、剣聖とかが良かったよ・・・
それなら、クラスは”剣士”とか、”武道家”とかになれたのに・・・・

おばさんにはこう言われた。
「どうしても冒険者になりたいなら、あたしが納得するギフトを貰ってきな!!そうじゃなきゃ冒険者になんてさせないからね!!」ってね・・・

・・・・・・・・・納得するわけないよなぁああああ!!!
僕だって納得してないよおおおおお!!!!

だけど・・・僕は諦めたくない・・・
それに、こんなギフトでも1つだけ、たった1つだけ、こんな僕でも出来るクラスがある。

それは”運び屋”だ。

運び屋とは、名前の通り物を運ぶ役割を持つクラス。
言ってしまえば荷物持ちだ。

これなら、戦闘に関係ないクラスだし、何もとりえのない・・・ギフトすら恵まれなかった僕でも出来るクラスだ。

だけど・・・運び屋は完全な非戦闘員で超が10個ほど付くほど不人気クラス。

それは「運び屋になりたい人がいない」というだけで無く、「パーティに加入させたくない」
という不人気さもある。

冒険とは常に危険と隣り合わせなわけで、ハッキリ言って運び屋がいると邪魔な事が多い。
運び屋が必要な時は遠征か、キャラバンなどを組む大型クエストがあった時くらい。

しかし普段行えるクエストではわざわざ運び屋を加入させるメリットが無い。
だって、荷物くらい自分たちで持てばいいのだから。

それにクエストの報酬が分配されてしまい、自分たちの取り分が少なくなるデメリットがあるので、戦闘では役に立たない運び屋をパーティに加入させる物好きなんていないだろう。

・・・・でも・・・今の僕が冒険をするにはこれしかないだよな・・・・
おばさんをどう説得すれば良いんだろうか・・・・

そんなことを考えて向かったが特に何もいい案が思いつかず、ついに暴飲食い倒れ亭に着いてしまった。

あー・・・ヤバい・・・
何も思いついてないよ・・・

とはいえ、このまま扉の前に立ち尽くしてはいけない。
それにそろそろお昼の時間になるから、人手がいるはずだ。

僕は覚悟を決めて扉を開けた。

「お、おはようご「ジン!!やっと来たのかい!!さっさと準備しておくれ!!」」

僕が挨拶を言い切る前におばさんが大慌てで僕に指示した。

それもそのはず
いくらお昼時だからってお客さんがあまりに多い。
おばさんや一緒に働いている子たちもてんやわんやしている。

「ジン!!早く調理場に立っとっておくれ!!旦那が一人で切り盛りしてんだ!!」
「わ、わかりました!!急いで準備します!!」

急いで準備しようと、厨房の隣にある更衣室に向かったところ、調理担当のおじさんが

「ジン・・・頼む・・・・早く来てくれぇ・・・・」
と、今にも死にそうな顔で僕に言った。

・・・・うん。
おばさんの説得の前にまずこの状況を何とかしないとな・・・・

僕は急いで支度し、厨房でおじさんと調理を勤しんだ。
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