28 / 81
27. 魔獣の森合宿④
しおりを挟む
ミリカが懸念していた『アレックスグループに入れない問題』は、翌日あっさりと解決した。
ユリアンナが機転を効かせてミリカのグループの令嬢たちに指示し、アレックスたちに会話が聞こえるように新たな嫌がらせ計画について会話させたのだ。
◇
「せっかく置き去りにしたのに、帰ってきてしまいましたわね」
「もう少し困ってもらわないと嫌がらせのしがいがないわ」
「そういえばわたくし、父と付き合いのある商人からの紹介で面白いものを外国から取り寄せましたのよ」
「あら、何かしら?」
「これ、『魔獣避けの香』が詰まったサシェですの。合宿のときに万が一のことがないよう持ってきたのですが………これ、火気厳禁なんです。どうしてか分かります?」
「いいえ。どうしてですの?」
「これは燃やすと、逆に魔獣を引き寄せる匂いを発してしまうのですって。しかも魔獣を酔わせるような匂いらしく、普段は大人しいものでも凶暴化してしまうのだとか」
「まあっ。それは危険ですわね?……ふふっ。今日のサバイバル演習で彼女に焚き火番を任せた時、間違えてそれを火にくべてしまったらどうなるのかしら?」
「あらぁ。それは面白そうね」
ウフフと笑い合う令嬢たちから隠れた場所でこの会話を聞いていたアレックスたち。
ジャックなどは顳顬に青筋を立てて今にも令嬢たちに殴りかかりそうな勢いであったが、何とかアレックスが押し留めた。
「落ち着け、ジャック」
「これが落ち着いていられるか!明らかにミリカを害する計画じゃないか!」
「だから落ち着けよ。彼女たちの会話は確かに不穏なものだが、『計画』というほど綿密ではなく単なる思いつきを喋っていたような雰囲気だったろ?それに、会話に出てきた『彼女』がミリカ嬢のことかどうかが分からないじゃないか」
会話の内容は明らかにミリカを指したものであったが、あの令嬢たちは会話の中で『ミリカ』とは一言も言っていない。
この状況で令嬢たちを糾弾しても、「何の話でしょう?」ととぼけられるのがオチだ。
「悔しいがこの段階で彼女たちを責めることはできないだろ?」
ジャックのことを冷静に諭すサイラスだが、その目は座っている。
もし本当にミリカが酷い目に遭ったのを目の当たりにしたら、令嬢たちのみならず一族郎党消し炭にしてしまいそうな勢いだ。
アレックスは2人の様子を見て頭を抱えた。
昨日困っていたミリカを自身のグループに加えなかったのは、単にミリカが他のメンバーから逸れてしまった可能性があったことと、ミリカだけを特別扱いしてしまうことに抵抗があったからだ。
アレックスは婚約者がいる身だし、特別扱いしてミリカがさらに虐めの対象になることを避けたかったのだ。
しかし、サイラスとジャックの様子を見るにこのままミリカを今のグループにいさせるのは危険なようだ。
計画が本当であった場合ミリカが危険な目に遭うし、計画が実行されなかったとしてもサイラスとジャックは常にあの令嬢たちを監視し、何かあれば即刻排除するだろう。
せっかくの合宿をそのような修羅場にするのも忍びない。
アレックスは熟考の末、ミリカを自身のグループに加えることに決めた。
これ以上揉め事を起こすのは得策ではないとの判断からである。
結果的に、アレックスの性格から思考回路を分析したユリアンナの作戦が功を奏した形となった。
◇
晴れてアレックスグループに合流したミリカは、意気揚々と3泊4日のサバイバル演習に参加した。
このサバイバル演習では、ミリカが待ち侘びていたラッキースケベ的なラブイベントがてんこ盛りなのだ。
夜に森の中の泉で水浴びをしていたミリカがいると知らずに入ってきた裸のジャックと鉢合わせてしまったり、暗闇で足を取られて転びそうになったミリカを支えようとしたサイラスまで転び、押し倒されるような格好になってしまったり。
極め付けはアレックスと共に食料調達に出たミリカが足を滑らせ崖下に滑り落ちてしまい、慌ててアレックスが探し出した時には日が暮れてしまい、しかもミリカが足を怪我して移動が困難だったために近くの洞穴で野宿することになった、いわゆる『洞穴イベント』だ。
運悪く降り出した雨に打たれ、焚き火で着ていた服を乾かす2人。
夜が深まり気温が下がるにつれ、ミリカはガタガタと身体を震わせる。
それを見たアレックスはミリカと身を寄せ合い、お互いの体温で温め合う。
そして気分が高揚した2人はそのまま見つめ合い、唇を────
合わせなかった。
本来ならばここでアレックスと初めてキスするはずだったのだが、なぜかアレックスはキスして来なかった。
(どうして!?このイベント自体がある程度好感ポイントが貯まっていないと起きないイベントなのに!)
ミリカと身体を寄せ合ったアレックスは頬を染め、優しい視線をミリカに向けている。
アレックスの心は確実にミリカに傾いているはずなのに、強力な自制心の賜物なのか一線を超えてくれない。
かと言ってミリカから迫るわけにもいかず、悶々とした一夜を送る羽目になったのであった。
ユリアンナが機転を効かせてミリカのグループの令嬢たちに指示し、アレックスたちに会話が聞こえるように新たな嫌がらせ計画について会話させたのだ。
◇
「せっかく置き去りにしたのに、帰ってきてしまいましたわね」
「もう少し困ってもらわないと嫌がらせのしがいがないわ」
「そういえばわたくし、父と付き合いのある商人からの紹介で面白いものを外国から取り寄せましたのよ」
「あら、何かしら?」
「これ、『魔獣避けの香』が詰まったサシェですの。合宿のときに万が一のことがないよう持ってきたのですが………これ、火気厳禁なんです。どうしてか分かります?」
「いいえ。どうしてですの?」
「これは燃やすと、逆に魔獣を引き寄せる匂いを発してしまうのですって。しかも魔獣を酔わせるような匂いらしく、普段は大人しいものでも凶暴化してしまうのだとか」
「まあっ。それは危険ですわね?……ふふっ。今日のサバイバル演習で彼女に焚き火番を任せた時、間違えてそれを火にくべてしまったらどうなるのかしら?」
「あらぁ。それは面白そうね」
ウフフと笑い合う令嬢たちから隠れた場所でこの会話を聞いていたアレックスたち。
ジャックなどは顳顬に青筋を立てて今にも令嬢たちに殴りかかりそうな勢いであったが、何とかアレックスが押し留めた。
「落ち着け、ジャック」
「これが落ち着いていられるか!明らかにミリカを害する計画じゃないか!」
「だから落ち着けよ。彼女たちの会話は確かに不穏なものだが、『計画』というほど綿密ではなく単なる思いつきを喋っていたような雰囲気だったろ?それに、会話に出てきた『彼女』がミリカ嬢のことかどうかが分からないじゃないか」
会話の内容は明らかにミリカを指したものであったが、あの令嬢たちは会話の中で『ミリカ』とは一言も言っていない。
この状況で令嬢たちを糾弾しても、「何の話でしょう?」ととぼけられるのがオチだ。
「悔しいがこの段階で彼女たちを責めることはできないだろ?」
ジャックのことを冷静に諭すサイラスだが、その目は座っている。
もし本当にミリカが酷い目に遭ったのを目の当たりにしたら、令嬢たちのみならず一族郎党消し炭にしてしまいそうな勢いだ。
アレックスは2人の様子を見て頭を抱えた。
昨日困っていたミリカを自身のグループに加えなかったのは、単にミリカが他のメンバーから逸れてしまった可能性があったことと、ミリカだけを特別扱いしてしまうことに抵抗があったからだ。
アレックスは婚約者がいる身だし、特別扱いしてミリカがさらに虐めの対象になることを避けたかったのだ。
しかし、サイラスとジャックの様子を見るにこのままミリカを今のグループにいさせるのは危険なようだ。
計画が本当であった場合ミリカが危険な目に遭うし、計画が実行されなかったとしてもサイラスとジャックは常にあの令嬢たちを監視し、何かあれば即刻排除するだろう。
せっかくの合宿をそのような修羅場にするのも忍びない。
アレックスは熟考の末、ミリカを自身のグループに加えることに決めた。
これ以上揉め事を起こすのは得策ではないとの判断からである。
結果的に、アレックスの性格から思考回路を分析したユリアンナの作戦が功を奏した形となった。
◇
晴れてアレックスグループに合流したミリカは、意気揚々と3泊4日のサバイバル演習に参加した。
このサバイバル演習では、ミリカが待ち侘びていたラッキースケベ的なラブイベントがてんこ盛りなのだ。
夜に森の中の泉で水浴びをしていたミリカがいると知らずに入ってきた裸のジャックと鉢合わせてしまったり、暗闇で足を取られて転びそうになったミリカを支えようとしたサイラスまで転び、押し倒されるような格好になってしまったり。
極め付けはアレックスと共に食料調達に出たミリカが足を滑らせ崖下に滑り落ちてしまい、慌ててアレックスが探し出した時には日が暮れてしまい、しかもミリカが足を怪我して移動が困難だったために近くの洞穴で野宿することになった、いわゆる『洞穴イベント』だ。
運悪く降り出した雨に打たれ、焚き火で着ていた服を乾かす2人。
夜が深まり気温が下がるにつれ、ミリカはガタガタと身体を震わせる。
それを見たアレックスはミリカと身を寄せ合い、お互いの体温で温め合う。
そして気分が高揚した2人はそのまま見つめ合い、唇を────
合わせなかった。
本来ならばここでアレックスと初めてキスするはずだったのだが、なぜかアレックスはキスして来なかった。
(どうして!?このイベント自体がある程度好感ポイントが貯まっていないと起きないイベントなのに!)
ミリカと身体を寄せ合ったアレックスは頬を染め、優しい視線をミリカに向けている。
アレックスの心は確実にミリカに傾いているはずなのに、強力な自制心の賜物なのか一線を超えてくれない。
かと言ってミリカから迫るわけにもいかず、悶々とした一夜を送る羽目になったのであった。
10
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜
みおな
恋愛
公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。
当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。
どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる