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14. やっぱりあなたも転生者 〜ミリカside

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 ミリカ・ローウェンが自分が転生者であると認識したのは、まだ幼い頃だった。

「あのね、わたし、おうじさまとけっこんするのよ」

 拙い口調でそう言う愛娘を両親は愛らしいと思ったが、まさかそれが本気などとは露ほども思っていなかった。
 しかしミリカは自分の未来を確かに知っていた。
 だからこそ幼い頃から勉学に励み、王子妃に相応しい自分になるよう研鑽を積んできた。

 ヒロインに転生したなら、普通なら『何もしなくても薔薇色ハッピーライフが待っている!』と浮き足立ちそうなものであるが、ミリカはそうではなかった。
 前世で好きだった『ザマァ系』作品では、悪役令嬢がバカで性悪な自称ヒロイン、所謂〝ヒドイン〟を逆に追い詰めて追放する展開がテンプレだった。

 自分がヒロインに転生したと自覚した時から「自分は絶対に〝ヒドイン〟にはならない」と自分に言い聞かせ、未来に向けて準備をして来たのが今世のミリカ・ローウェンなのだ。

 実のところ、ミリカは前世でも賢くて要領の良い女性だった。
 基本的な能力が高いから勉強も苦にならないし、ローウェン家の寄親である伯爵家の当主も早くからミリカの非凡さに気付いて高度な教育の機会を与えた。
 弱小貴族のミリカがゴールドローズ学園に通えるのも、ミリカがあまりに優秀なために伯爵が支援してくれることになったためである。

 伯爵としては、ゆくゆくは自身の息子とミリカを結婚させて領地管理をさせる算段だったが、ゲームではミリカは王子やその他の高位貴族の令息たちを射止めるわけだから、ミリカには端からそのつもりがない。
 のらりくらりと伯爵の息子との婚約話を交わして、ゴールドローズ学園入学まで漕ぎ着けた。

 ゲームではミリカはトラブルにより入学式に遅れることになっていたが、ミリカには不安があった。
 それは、本当に全てがゲーム通りに行くのか?ということ。
 いくらゲーム内では起こると分かっていても、ここは現実だ。
 少しの行動の違いやズレによって未来が変わっても不思議ではない。

 ミリカにとって一番最悪なのは、入学式に出られず攻略対象者たちとの出会いイベントをこなせないこと。
 だから、ミリカは予定より早めに王都に発つことにした。
 早めに出発したミリカはトラブルに遭うことなく王都に到着し、入寮も無事済ませた。

 そして他の攻略対象者を事前に確認しておこうと入学式前の学園にきたところを、ユリアンナに見られたというわけである。
 しかし、当のミリカはゲームの舞台である学園を見て回ることに夢中でユリアンナに気が付いていないのだが。

 いざ学園に来てみるとその光景がゲームのスチルと全く同じで、ミリカのテンションは最高潮だった。

(このポーチでアレックスと出会うのよね!)

(あ、あの花壇はサイラス攻略の鍵になる思い出の『白いフリージア』が咲く花壇だわ!)

 これから起こる胸キュンイベントに想いを馳せながら学園を歩いていたミリカは、ふと広場中央にある噴水前で足を止める。

(この噴水は……初めてのユリアンナイベントの)

 そこまで思い出して、ミリカは今日初めて表情を曇らせる。
 ミリカが前世を思い出した時からの懸念。
 それは、なのではないか?ということ。

 ヒロインが転生者なら悪役令嬢も転生者であるということは〝よくあるパターン〟なのだ。
 ミリカが一番恐れるのは『悪役令嬢からのザマァ展開』であった。

 しかしゲームのシナリオもまだ始まっていない今、それを心配しすぎてもどうしようもない。
 幸いにしてミリカは頭の良さも要領の良さも持ち合わせているため、悪役令嬢の出方を見て対策を練れば良いと考えていた。

 頭に浮かんだ嫌な気持ちを一旦追い払い、ミリカは再び寮に戻った。
 入学式に遅れて出向き、アレックスとの出会いのシーンを再現するためである。
 そして時間ギリギリに寮を出て、走って学園へ向かった。





 ミリカが正門に到着すると、ちょうど王家の紋章がついた馬車が停車場から出るところであった。
 そのまま走って門を潜ったミリカの前に、夢にまで見た白金の髪が揺れる。
 パタパタという足音に驚いたのか白金髪の彼がゆっくりと振り返り、その珊瑚礁の海のような美しい碧眼がミリカに向けられる。

「………?君も、新入生?」

 高くも低くもない涼やかな声がミリカの耳をくすぐる。
 アレックスの声は、ミリカの前世の推し声優の声なのだ。
 内心喜びに打ち震える胸を押さえながら、ミリカはアレックスに向けて口を開く。

「あ、はい!私、ミリカ・ローウェンと言います!田舎から初めて王都に来たのですが、ちょっとトラブルがあって遅れてしまいました!」

 ミリカは息を切らせながら肩を上下させる。
 アレックスはミリカの様子を見て、ブレザーの内ポケットからハンカチを取り出して差し出す。

「……一生懸命走って来たんだね?これで汗を拭うと良いよ」

 ニコリと笑うアレックスに、ミリカはつい見惚れる。
 だって、こんな美形は前世でも今世でも見たことがない。
 髪も肌も作り物のように艶やかで美しく、2次元の人物のように顔が整っている。

 受け取ったハンカチからは、仄かに良い香りがする。
 何の香りだろう……ムスク?

「ありがとうございます!親切にしていただいて嬉しいです」

 ミリカは満面の笑みでアレックスに礼を言う。
 この一連のやり取りは、まさにゲーム通りである。

「君は少し息を落ち着かせてから会場においで。僕は所用があるから先に失礼させてもらうよ」

 アレックスは柔らかな物腰でそう言うと、ミリカに手を振ってから振り返り会場へ向かった。

「………はぁぁぁ。マジでイケメン。最高。やっぱアレックスは狙わなきゃ」

 アレックスとの邂逅を終え力が抜けたミリカは、思わずそう呟く。

「………やっぱり、貴女も転生者なのね」

「ぎぇっ!!」

 いきなり背後から声がして振り返ると、そこには一目で高貴と分かる美しい金髪に少し勝気な紅色の瞳を持つ美少女が立っていた。

「ユ………ユリアンナ……!?」

 本来ならば男爵令嬢が公爵令嬢を呼び捨てるなどあり得ないことだ。
 しかしそんなこの世界の常識が吹っ飛んでしまうほど、ミリカは驚いていた。
 ゲームでは、この場所でミリカとユリアンナが出会うことはない。

 しかも………

「て、転生者って言った……?もしかして、あなたも転生者なの?」

 ミリカの馴れ馴れしい問いかけに憤慨することもなく、ユリアンナは口角を上げる。

「そうよ。ミリカ・ローウェンさん。同じ転生者として、わたくしと取引きしてくださらない?」

 次にユリアンナから出て来た言葉に、ミリカは驚愕した。



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