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8. 魔法を学ぶ
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オズワルドから魔法を教えてもらう約束を取り付けたユリアンナは、週に3度、オズワルドが暮らしている王都郊外の古屋敷に出向くことになった。
黒髪黒眼で生まれたために家族から疎まれているオズワルドは、ウォーム伯爵家で家族と共に暮らすことを許されず、誰も近寄らない森の中にある古い屋敷に住まわされている。
そんな酷い待遇にも関わらず何故捨てられなかったかと言えば、ひとえにオズワルドが膨大な魔力の持ち主だからだ。
オズワルドほどの魔力の持ち主は、将来的に必ず偉大な魔術師となる。
国としてはオズワルドのような金の卵を逃したくはないので、王家はウォーム伯爵家にオズワルドにきちんとした教育を施すよう命じた。
しかし、魔力が高すぎる者にはよくあることなのだが、幼少期など魔力コントロールが未熟な時期には魔法を暴走させることがある。
故に、元々魔法の素質のある家門ではないウォーム伯爵家は、オズワルドを持て余した。
ただでさえ黒髪黒眼という気味の悪い容姿なのにいつ魔法を暴走させるかわからないオズワルドを、家族は疎んだ。
しかし国王の命もあり、オズワルドを捨てることはできない。
それならば理解ある者のところに預ければ良かったのだが、『有能な魔術師を輩出した』という栄誉も捨てられない強欲なウォーム伯爵は、オズワルドを手放さずに隔離して軟禁状態にした。
その結果、オズワルドはこの人気のない萎びた屋敷で一人暮らすことになったのである。
家族に疎まれて一人で暮らすオズワルドと、家族に疎まれながらも贅沢な暮らしを送るユリアンナ。
ユリアンナの方がまだ恵まれているだろうか?
………実際は手元に置いて常に監視されているのだとしても。
ユリアンナはまだ一応アレックスの婚約者なので、変な噂が立たないよう平民のような地味な格好をして、家門のついていない質素な馬車でオズワルドの古屋敷へ向かう。
「………本当に来たのか」
古屋敷でユリアンナを出迎えたオズワルドの第一声はそれだった。
「当然ですわ!死活問題ですから」
両手でグーを作ってフンスと気合を入れるユリアンナを、オズワルドは物珍しげに眺めた。
「アンタが本気なのは分かったよ。じゃあ、取り敢えず入って」
オズワルドは屋敷内にユリアンナを招き入れる。
当然だが、屋敷に入るのはユリアンナだけではない。
帯同した侍女と護衛も一緒だが、侍女たちはオズワルドの見た目に怯えたような表情をしている。
そんな侍女たちの様子を気に留めるでもなく、オズワルドは応接室らしき部屋にユリアンナを通す。
「ボロくて悪いな。座り心地が悪いかもしれないが我慢してくれ」
オズワルドはバツが悪そうにユリアンナをボロボロのソファに座るよう促す。
室内には全く手入れのされていない、ボロボロの家具しか置いていない。
使用人も一応いるみたいだが、ユリアンナが帯同している護衛よりも少ないし、何より主であるはずのオズワルドからかなり距離を取っている。
きっと最低限の世話しかしていないのだろう。
「全く問題ありませんわ。ソファは座るためのものですから、座れれば良いのです」
ユリアンナは全く気にしていないように躊躇なくソファに腰掛けた。
その様子を見たオズワルドは少々面食らったように動きを止めたが、ゴホンとひとつ咳払いをしてユリアンナに向き直った。
「……そうか。それなら早速始めよう。まずは、アンタの魔法の適正を見せてくれるか?」
そう言って、オズワルドはユリアンナに両手を差し出す。
ユリアンナは差し出された手の平の上に自身の手を乗せる。
オズワルドが目を閉じると、一瞬にして全身にブワッと力が漲り、その黒髪がふわりと浮き上がり、その端正な顔立ちが顕になる。
そしてその力は重ねた手からユリアンナにも伝わり、温かく心地よい力がユリアンナの全身をゆっくりと巡っていく。
すぅっと体が冷え、ユリアンナが自然と閉じていた瞼を上げると、前髪の隙間から覗くオズワルドの黒い瞳と視線がぶつかる。
「アンタは魔力が豊富な方なんだな。さすが公爵家の令嬢だ。………どうして今まで魔法の教師をつけてもらわなかった?」
手を離すと、オズワルドが至極尤もな質問をしてくる。
「わたくし、今まで勉強が大っ嫌いでしたの。幼い頃の家庭教師に、何をやっても兄と比べて貶されましたので。ですから、魔法の教師も得意の癇癪を起こして追い出して差し上げましたの」
「………ああ、なるほど?うん、何ていうか………評判通りの令嬢だな」
ユリアンナの返事を聞いて、オズワルドはポリポリと頰を掻く。
「ええ。あ、でもご安心ください。わたくし、今度は癇癪を起こさずにきちんと教えを乞うつもりですので。だって、命が懸っているのですから」
「………ああ、そうしてくれると助かる……な」
まともなことを言っているんだかよく分からないユリアンナの態度に、オズワルドは終始戸惑った表情を浮かべていた。
黒髪黒眼で生まれたために家族から疎まれているオズワルドは、ウォーム伯爵家で家族と共に暮らすことを許されず、誰も近寄らない森の中にある古い屋敷に住まわされている。
そんな酷い待遇にも関わらず何故捨てられなかったかと言えば、ひとえにオズワルドが膨大な魔力の持ち主だからだ。
オズワルドほどの魔力の持ち主は、将来的に必ず偉大な魔術師となる。
国としてはオズワルドのような金の卵を逃したくはないので、王家はウォーム伯爵家にオズワルドにきちんとした教育を施すよう命じた。
しかし、魔力が高すぎる者にはよくあることなのだが、幼少期など魔力コントロールが未熟な時期には魔法を暴走させることがある。
故に、元々魔法の素質のある家門ではないウォーム伯爵家は、オズワルドを持て余した。
ただでさえ黒髪黒眼という気味の悪い容姿なのにいつ魔法を暴走させるかわからないオズワルドを、家族は疎んだ。
しかし国王の命もあり、オズワルドを捨てることはできない。
それならば理解ある者のところに預ければ良かったのだが、『有能な魔術師を輩出した』という栄誉も捨てられない強欲なウォーム伯爵は、オズワルドを手放さずに隔離して軟禁状態にした。
その結果、オズワルドはこの人気のない萎びた屋敷で一人暮らすことになったのである。
家族に疎まれて一人で暮らすオズワルドと、家族に疎まれながらも贅沢な暮らしを送るユリアンナ。
ユリアンナの方がまだ恵まれているだろうか?
………実際は手元に置いて常に監視されているのだとしても。
ユリアンナはまだ一応アレックスの婚約者なので、変な噂が立たないよう平民のような地味な格好をして、家門のついていない質素な馬車でオズワルドの古屋敷へ向かう。
「………本当に来たのか」
古屋敷でユリアンナを出迎えたオズワルドの第一声はそれだった。
「当然ですわ!死活問題ですから」
両手でグーを作ってフンスと気合を入れるユリアンナを、オズワルドは物珍しげに眺めた。
「アンタが本気なのは分かったよ。じゃあ、取り敢えず入って」
オズワルドは屋敷内にユリアンナを招き入れる。
当然だが、屋敷に入るのはユリアンナだけではない。
帯同した侍女と護衛も一緒だが、侍女たちはオズワルドの見た目に怯えたような表情をしている。
そんな侍女たちの様子を気に留めるでもなく、オズワルドは応接室らしき部屋にユリアンナを通す。
「ボロくて悪いな。座り心地が悪いかもしれないが我慢してくれ」
オズワルドはバツが悪そうにユリアンナをボロボロのソファに座るよう促す。
室内には全く手入れのされていない、ボロボロの家具しか置いていない。
使用人も一応いるみたいだが、ユリアンナが帯同している護衛よりも少ないし、何より主であるはずのオズワルドからかなり距離を取っている。
きっと最低限の世話しかしていないのだろう。
「全く問題ありませんわ。ソファは座るためのものですから、座れれば良いのです」
ユリアンナは全く気にしていないように躊躇なくソファに腰掛けた。
その様子を見たオズワルドは少々面食らったように動きを止めたが、ゴホンとひとつ咳払いをしてユリアンナに向き直った。
「……そうか。それなら早速始めよう。まずは、アンタの魔法の適正を見せてくれるか?」
そう言って、オズワルドはユリアンナに両手を差し出す。
ユリアンナは差し出された手の平の上に自身の手を乗せる。
オズワルドが目を閉じると、一瞬にして全身にブワッと力が漲り、その黒髪がふわりと浮き上がり、その端正な顔立ちが顕になる。
そしてその力は重ねた手からユリアンナにも伝わり、温かく心地よい力がユリアンナの全身をゆっくりと巡っていく。
すぅっと体が冷え、ユリアンナが自然と閉じていた瞼を上げると、前髪の隙間から覗くオズワルドの黒い瞳と視線がぶつかる。
「アンタは魔力が豊富な方なんだな。さすが公爵家の令嬢だ。………どうして今まで魔法の教師をつけてもらわなかった?」
手を離すと、オズワルドが至極尤もな質問をしてくる。
「わたくし、今まで勉強が大っ嫌いでしたの。幼い頃の家庭教師に、何をやっても兄と比べて貶されましたので。ですから、魔法の教師も得意の癇癪を起こして追い出して差し上げましたの」
「………ああ、なるほど?うん、何ていうか………評判通りの令嬢だな」
ユリアンナの返事を聞いて、オズワルドはポリポリと頰を掻く。
「ええ。あ、でもご安心ください。わたくし、今度は癇癪を起こさずにきちんと教えを乞うつもりですので。だって、命が懸っているのですから」
「………ああ、そうしてくれると助かる……な」
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