オレとアイツの秘密な恋

月詠嗣苑

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「花火大会……ですか?」

「そう! うちらと行かない?」

 そう佐田さんが仲良くしてる友だち……確か、小泉さんが言ってきた。

 前、なっちゃん達と行ったりはしたけど。

「花火大会? いいねぇ」

 桜井くんが、間に入ってくると、

「じゃ、桜井と悠馬も来る?!」

「俺パス」

 机に突っ伏していた岡崎悠馬が、手を挙げながらそう言った。

─なら!?

「あの……母に聞いてからでいいかな?」

「うん。いいよー」

「あ、一応俺は参加ね?」

「わかったって。あんた誘わないとしつこく絡んでくるから……」

 小林さん達女子数人は、そう言ってどこかに行った。

 まだこっちにきてから、人が大勢集まる所に行った事はなかった。怖かったから……。


「ネクラ、お前ほんとに花火大会行くの?」

 図書室に行くと先に来ていた岡崎悠馬が、顔に本を乗せたまま言ってきた。

「わかりません、まだ……」

「そっ……」

 最近、よくわからないけど、この数十分間の時間が心地よく感じる。

 浴衣、どうしよ?

 帰宅直後、ママにそのことを伝えると、

「あら、いいじゃない! こっちのお祭りは大きいからね。あ、浴衣どうする? 当ててみる?」

 ママは、嬉しそうに笑って、クローゼットのオクから浴衣を取り出したものの……

「あー、残念! まだ、着れると思ったのにぃ」

「足が……」

 これ中学の時に着たものだからなぁ。私も成長してたのか。

 夜、仕事が終わったパパに浴衣の事を言ったら、お小遣い貰えた!!

「これで、新しいのを買いなさい。いいかい? おとなしめのを買うんだぞ。派手なのは、ダメだ」

「わかってるって……」

 おばあちゃんが縫ってくれた浴衣は、もう着れなくなったけど。それと似たようなのを着たいな……。


「え? マジ行けるの?」

「はい」

 昨日の今日であれだけど……。

「ただ、浴衣が。新しいの買わないといけなくて」

「私行こうか?」

「じゃ、俺も行く! 悠馬、お前も行くだろ?」

「行くよね? 悠馬」

 え?くるの?

 ゾロッとみんなの目が、岡崎悠馬に集まったが……

「別に……どっちでもいい」

 ダルそうに答えた。

 昼休み……

 いつものように岡崎悠馬は、本を顔に載せて眠っていた。

 最近、よく読む本がなぜか貸出になっていて、今日は別の本。

「ネクラ?」

「はい」

「行くから。アイツらに任せると派手なのばっかになるし……」

「はぁ……」

 くるのか、結局。ま、気にしなきゃいいんだけど。

 明後日から夏休み!!

 そして、早々と渡される成績表と考査の点数評価。

「どうだった? ネクラちゃん」

 前の席の佐田さんが、話しかけてきた。

「わかんない。これがいいのかどうか」

「俺はねー」

「アンタには聞いてないっての」

 佐田さんが、桜井くんの背中を叩く。

「悠馬……。お前は、聞くだけ野暮だったな」

 オールAだったらしく、桜井くんが勉強教えてと頼み込んでた。すがってた?

 私のは、ある意味オールB+で、考査は320人中186番。頭は、悪い……。

 でも、このクラスで赤点とかギリギリの人がいなかったせいか、先生の機嫌が良かった。

「お前、勉強苦手なのか?」

「え?」

 いつもの図書室、いつもの2人……

「ま、少しだけ」

「判定は?」

「B+」

「頼みがある」

「なんですか?」

 本を読みながら、言葉を返す。

「俺の飯作ってくれるなら、勉強教えてやる」

 はい?いま、なんと?私とあなたは、ただのクラスメイトですよね?

「返事は、明日の昼までに欲しい。俺、もう少し寝てるから」

 予鈴チャイムが、鳴っても岡崎悠馬はこなかった……。


 翌日は、終業式だったから、授業もなく、賑やかに帰った。

 そう賑やかに……。

「お前、うるさい」

 岡崎悠馬が、桜井くんを睨んでも、何故かテンション上がりっぱなしな彼。そんなに夏休みが、嬉しいのかな?

「じゃ、またあとでねぇ」

「悠馬、遅れるなよ!!」

「ネクラちゃん。あとで、あそぼー!」

 そんな別れ際の挨拶をして、私は家に。岡崎悠馬も、私の少し後ろから歩いてくる。そして、私が家に入るのを確認してから、自分も帰る。その間、一言も喋らない。

 急いで身支度をすると、ママが目を細めて笑う。

「あ、髪下ろしたの? 懐かしいわね」

 普段は、二つで結んでメガネを掛けてるから、髪を解いただけで、こう言われる。

「うん。たまには……」

「あ、ちょっと待ってて」

 ママが、寝室の方に行って、すぐに戻ってきた。

 シュッ……

「これ、ママの……」

「たまには、おしゃれしていくのもいいわよ。はい、行ってらっしゃい」

 ママが、お気に入りの香水をかけてくれた。

「いい匂い。行ってきます」

 なんだろ?この香水の香りを嗅ぐと、気持ち華やぐ……。


「え?」

「嘘……」

「え、こんなに変わるの?」

「……」

 髪をただ下ろしただけですが?普段、制服しか着てないし、あまり人と遊ばないせいか、かなり驚かれた。

「眼鏡じゃなく、コンタクトにすればいいのに……」

「ねぇ、それ俺もそう思った」

「……」

 これは……言えない。あの時、突き飛ばされたせいで目元に小さな傷があるから。

「いいだろ、別に。眼鏡かけてようが、かけてまいが、コイツはコイツだ」

 ?

「それに、コンタクト出来ないのはアレルギーなのかも知れんから」

 岡崎悠馬がそういうと、他の3人は申し訳無さそうに謝ってくれた。

 それから、みんなで浴衣フェアの中に溶け込んで、一通り騒ぎながらなんとか選んだ。

「でも、ほんとにそんな地味なのでいいの?」

「そうだよぉ。もっと可愛いのいっぱいあったのに……」

「……」

「お、俺は似合うと思うよ。な、佐田」

 急に自分に矢が振られて、慌てて頷く佐田さん。

 なんだろう?なんか、佐田さん焦った感じが可愛いと思った。

「あ、可愛い」

「ネクラちゃん! あんた笑うともっと可愛いじゃん!」

 ?笑ってた?え?

「いつも能面に近……」

 バンッ……

「あんた、最低!」

 佐田さんが、桜井くんの背中を叩いた。

「デリカシーなさすぎ! 桜井」

 桜井くん、岡崎悠馬の顔を見ると、素知らぬ顔。

 帰りにみんなでマックに寄った。

 なっちゃん達とも何度も行ったけど、なんだろう?心が、とても熱くなる。

 嬉しい!って思う。

「え? どしたん? 急に」

「桜井、あんたなんかした?」

「なんもしてねーし! 綾華ちゃん?」

 なんかいつの間にか、悲しくもないのに涙が出てたらしい。

「……ん」

 クシャクシャになったハンカチ。岡崎悠馬のお気に入りなのか?

 とりあえず、涙拭いて……洗って返そうと思ったら、不造作につかんで自分のポケット入れた。

「めずらし、悠馬。あんたハンカチなんて持ち歩いてんの?」

「……」

「じゃ、帰るか? 俺この後、用事あるし」

 桜井くんが言うと、小林さんも佐田さんも用事があると、何故かその場に2人取り残された。

「帰るぞ」

「……はい」
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