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しおりを挟む夏休み直前になった。
「実はね、赤ちゃん出来たんだ」
昼休み、いつものように図書館で小松崎と話してたら、突拍子もない事を言いやがった。
「は? 小松崎、お前赤ん坊がどうやって出来るのか知ってるのか?」
「うん」
そもそも、俺とお前はまだ付き合ってねーよ?そりゃ、あの時コッソリとキスしちゃったけど。
「まさか、お前チューしたら妊娠すると?」
「へ? 違うよー。流石に、そこまで……」
耳まで赤くなってきてるし。
「お母さんが、よ」
「お前の?」
「うん」
焦るわ!
あ、一応どうすれば、妊娠するのかは、知ってたのね。
「で? お前は、それが嫌なの?」
「ううん。そうじゃなくて……」
「なに?」
「この年で、おばさんになるのかと思うと……」
お前、ほんとにバカ?
「バーカ! それは、兄弟だからお姉ちゃんだろが! お前、頭大丈夫か?」
「……」
「もう直ぐ夏休みだな……」
「うん。奉仕活動あるね」
「……」
だからか。うちのじいさん楽しそうに鎌の手入れしてたのは!あの顔で鎌持たせたら、俺でもこえーわ。
5時間目は、大掃除。これも班ごとにする。私の班は、職員室前のA会議室!
チャイムが鳴ると、それぞれの場所に向かう。
ドアを開けるとムッとした熱気が……
「ったく、こんな暑いとこでやってられるか!!」
と、岡崎悠馬が会議室のエアコンをつけた。
「おっ、ラッキー」
「あぁ、涼しいっ!! ねっ!」
「はい、涼しいです」
蒸し暑かった室内が、徐々に涼しくなり……
「じゃ、やるか!」
いつも階段の掃除とかでも、イヤイヤ渋々やってるのを見てはいたから、なぜ今日に限って率先してやるのか?
「おい、小松崎。お前も、早く机動かす!」
私、佐田さん、桜井くんは、揃って首を傾げた。
「ま、やりますか」
ガタガタと机を動かしたり、パイプ椅子を広げては拭いて畳んで……
1時間かけて、綺麗にした。
「いやぁ、これでこの後もアイスも格別だな。うん」
はい?
「アイス? 悠馬の奢り?」
「ちげーよ。コバが、隣のクラスの担任と話してたのを偶然聞いた」
「アイス、アイス! いちごのアイス!」
A会議室の鍵を返しに行き、教室に入ったら……
「な?」
既に掃除を終わらせた皆んなが、美味しそうにアイスを食べていた。
「お前ら、ラスト!」
「「「はぁーっ?!」」」
「俺のアイスー! あった!!」
手にしたのは、チョコ!
あれ?聞き間違い?
「ほら、お前のアイス!」
渡されたのは、いちご!
???なぜ?
でも、掃除終わりのアイスは、本当に格別に美味しかった。
「じゃ、またな」
「ばいばーい!」
軽く手を上げて、2人を見送った私は、家へと向かう。
「……」
家へと向かう。
「……」
ピタッ!!
「あの! なんで私の後をつけてくるんですか!!」
「は? えーと……俺んちこっちだから」
「ついてこないで下さい」
「いや、だから、俺んちこっちだって!!」
家が見えてきて、咄嗟にダッシュ!
玄関の覗き窓から覗くと、立ち止まった岡崎悠馬がこっちを見てたけど。暫くしたら、そのまま歩いていった。
「あら、おかえり。早かったのね」
ママの声に驚いた私は、その場でヘナヘナと座り込んだ。
「あー、そうだ。綾ちゃんになっちゃんからお手紙来てるわよ」
「なっちゃん?! ほんと? どこ?」
「え? 部屋だけど。ちょっと、階段走らないでよ!」
ママのおこごとは、この際無視!
なっちゃん、元気にしてるのかなぁ?
制服がシワになりそうだけど、早く読みたかった。
手紙を開くと写真が入ってた。
「懐かしい。元気そうだなぁ……」
前の中学は、2年になる少し前に転校したから、2年くらいあっていない。
髪が短かったなっちゃん、ポニーテールでお化粧してた。隣にいるのは、誰だろ?もう一枚のは、仲が良かったお友達みんな……。
「なになに? え? ママ! ママ! 大変よ! たいへーん!!」
慌てて階段を駆け降りて、ママに抱き付く。
「ちょっと、なーに。そんな慌てて」
「くるの! くるの!! なっちゃんと管ちゃんがくるの!! 遊びにくるの!!」
「あら、良かったじゃないの!!」
「うん! 夏休み後半に部活の大会が終わるから、くるって!!」
手紙が、クシャクシャになりそうなくらい抱きしめた。
高校生になってから、連絡も少なくなってたから、忘れられたかと思ったけど……。
「あっ、そうだ。綾ちゃん、パパの所にお届け物お願い出来る?」
渡されたのは、動物医科大学の胡桃沢さんからの手紙だった。
ママのお腹には、赤ちゃんがいるから。代わりに、私が……
駅の南口にデデンッとある小松崎動物病院。元々、ママのおじいちゃんがやってたけど、亡くなる前にパパが引き継いで、引っ越した。それが、中学2年になる少し前。
「じゃ、行ってくるね。ママは、ゆっくりしてて」
「気をつけてね」
ママに見送られながら、なっちゃんの事を考えた。あの写真の男の子は、きっと彼氏かな?私もいたらいいけど、いない。
駅への近道通ったら、誰かとぶつかった。
「なんだ、お前か……」
この言い方は……
「あ、ネクラちゃんじゃん!」
「こんにちは。数時間振り。じゃ!」
後ろを振り向く事なく、駅めがけてまっしぐら。
「どしたん?」
「さぁな……」
2人がどんな会話をしてたのかは知らない。
自動ドアが開くと、
「あ、綾華さん。こんにちは」
「こんにちは!」
待合室には、何人もの患者さん(犬猫ですが)がいた。
「おー、きたか」
「はい、これ!」
どんな内容なのかは、知らないけどなんとなくソワソワしてるのが、足元でわかる。
「じゃ、帰りますね」
「帰り、気をつけてね」
そんな言葉を交わしながら、家へと向かった。
「あっ、そうだ。猫神社行ってこよっと」
おまじないも占いも、いいことだけは信じるタイプ。
帰る途中、偶然会った場所も通ったけど、2人はもういなかった。
猫神社の近くに行くと、猫が数匹見守り?をしていた。
「こんにちは。入るね」
言葉はわからないだろうけど、なぜか話しかけてしまう。
「ここにくると、ほんと落ち着く……」
小さな神社だけど、ベンチもあるし、池もある。
ベンチに座って、池の鯉を眺めてると、雨が……。
「通り雨? 酷くない?」
雨宿りをしてたら、どこかで犬の鳴き声がした。猫も鳴いてる?どこだ?
声のする方へ行くと、2匹の犬が小さな子猫をいじめてた。
「犬……2匹」
石を投げれば犬は逃げるかもだけど、もしこちらに向かってきたらと思うと……
子猫は、ジリジリと後ろに逃げて、木の上に登った。犬は、容赦なく吠えてるし。
ひとりオロオロしてると、どこからともなく、
「なにしやがんだぁーーーっ!!」
その声と一緒に何かが飛んで、ギャンッと鳴いて犬はどこかへ逃げていった。
「誰だろ?」
ニャウゥーッ!!
「あぁ、ごめんね。大丈夫? いま、助けてあげるからね」
─とは言ったものの、木登りなんてしたことがなく、雨降る中ベンチを持ってこようとしたけど、重くて無理だった。
「お前、バカ?」
「……」
岡崎悠馬は、軽々と木に登り、子猫を助けてくれた。
「ありが……とう」
「こっち来い」
手を引っ張られ、何故か社務所に。
「ほら!」
投げられたタオルで、濡れた髪とか拭いた。
「コイツどうすんだ?」
タオルに包まれた子猫。飼いたいけど、うちには、クルミがいるし……。
で、結局、猫の神社で里親決まるまで預かってもらう事に。
「でも、なんで……?」
「俺んち、なんだよ。ここ! いいか? 今日の事は絶対誰にも言うなよ?!」
「うん……」
傘まで貸してもらって、家へと帰った。
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