オレとアイツの秘密な恋

月詠嗣苑

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 今朝は、夢見が悪かった。

 思い出したくもない。中学校生活。

 同じ"悠馬"でも、こうも違うのか!!


「あれ? ネクラちゃん。今日、体育見学なんだ……」

「あ、はい」

 そんな佐田さんも、見学なのね。

 今朝は、なんか頭痛がしたから……。

 走り幅跳び……やりたかったな。


 中学の時は、部活も陸上部にしたけど、結局辞めちゃったし。

 帽子は被ってるし、日陰での見学。それでも、5月の日差しは暑く……

 なんだろ?目がぼやけてくる。気持ち悪……

 ズサッ……

「え? ちょっと、ネクラちゃん?! どぉしたの? ねぇっ!! ちょっと、先生ー!!!」

 私は、焦りつつも体育の先生を大声で呼んだ。

「おーい! 小松崎? 大丈夫かー? 聞こえるかー?」

 誰? 見えない……目が……

 あとから聞いた話だと、私が気を失って倒れてから、体育の先生が私を抱き上げて保健室まで運び、ママに連絡をしたそうだけど、その日に限って動物病院に急患が何匹もきて、落ち着くまで預かって欲しいとお願いしたそうなんだけど?

「私、なんで部屋のベッドで寝てるの?」

「あー、お友達がね。運んでくれたのよ……」

 ママは、そう言ってた。


 まさか、あの子がねぇ。

「あの! 俺が、コイツを運んできた事、言わないでくれますか!?」

 引っ越したのは、知ってたけど、まさか同じ高校で同じクラスになるだなんて……。

「わかったわ。でも、あなた変わったわね」

 頭を下げ、また何処かへ走って言ったが……。

 あの子には、散々悩まされてきたけど……。パパにも、内緒にしといた方がいいわね。


「んー、やっぱ熱上がってきてるわねぇ」

「朝は、なかったんだよ。頭は痛かったけど」

 ママに薬を貰って、飲んで、寝たら夜には良くなった。

 でも、なんかずっと名前を呼ばれてたような気がするんだよねぇ。夢かな?

 翌日は、念の為にお休みして病院へ行ったら、風邪と言われた。

 玄関開けようとしたら、ドアノブに袋がぶら下がってた。

「なんだろ? ポカリとビタミン剤とゼリー? しかも、私が昔よく食べてたやつ」

「あ、きっとパパかも?」

 あらあら……。きっと、学校の昼休みにきたのかしら?

 夕方になるとチャイムが、鳴った。ママが、玄関で対応してたんだけど……。

「はい、これ。今日の課題と明日の予定だって。あと、これ……」

 渡されたのは、プリントとポカリ……

「誰?」

「さぁ? 名前聞こうとしたら、走っていったから」

「ふーん。誰だろ?」

 心当たりなんて、全くないし。


 翌朝…教室に入ると、佐田さんが声かけてきて驚いた。

「大丈夫だった? 風邪?」

「あ、はい。あの、ありがとうございました」

「あ? いいって、いいって! 誰だってあーなれば、驚くの当たり前だし」

「ふーん。風邪か。俺は、お前風邪引かないと思ってたけどな」

「悠馬ーっ!!」

 岡崎悠馬の周りは、瞬く間に人が集まる。

 ガタンッと他の子の足が机に当たったけど、ごめんね、と謝ってくれた。

 案外、怖そうに見えても、優しいのかも知れない。

「ほい……見舞いの品だ」

 目の前に置かれたのは、ポカリだった。

「えー、ネクラちゃんばっかズルイー! 悠馬ー!」

「ばーか! たまたま、押し間違えただけだ」

「ありがとうございます」


「お前さ、言葉使いなんとかしろ」

「はい?」

 午後の図書室。今日は、午後から空模様が怪しくなってきた。傘は持ってるけど。

「俺たちは、ある意味対等なんだよ」

「……はぁ」

「いちいち、ありがとうございますとか、いらねーの」

「あ、はい……」

 んー、そう言われてもこの喋りというか、昔からだからなぁ。困った。


 5時間目は、特修だった。いわゆる、自習なのだが、どの科目をやってもいいらしかった。

─って、寝てるし。あなた、昼間も図書室で寝てたじゃないの!

「明日、古文のテストか……」

 何気なく呟いたつもりだったが、岡崎悠馬が目を覚ました。

「どこら辺?」

「P68~80」

 普通に返事をしてしまった。しかも、岡崎悠馬は本当に頭がいいし、運動能力も素晴らしい。

 でも、なんで金髪なんだろ?

 そんな事を考えながらも、1人真面目にテスト勉強をしていった。

 結果……

「上がった……点数が上がった」

「幾つ?」

「90」

─ってまた!

「ふーん。どれどれ?」

 っ!!

 勝手に持ってかないでよ!なんて怖くて言えない。

「あれだけ真剣にやってたのに? これだけ?」

「え?」

「あたまわりーな、お前」

「な……」

 なにもそこまで言わなくてもいいでしょ! 岡崎悠馬には、関係ないんだから!

「あ……いや」

 反論?して、倍に返ってきたらと思うと怖くて出来ない。



「悠馬、言い過ぎー。ネクラちゃん、可哀想じゃん」

 何故か割り込んできたのが、佐田さんだった。

「ほら、ネクラちゃんも反論しなきゃ」

「ふっ、お前らがそれ言うのかよ。お前もお前だ。バッカじゃねぇの? たかが、点数……」

 ガタンッ!

 パァーーーンッ!!

 これには、周りも驚いた。私も驚いた。

「え? あっ! 違うの。これは、違うのーーーーっ!!」

 また上履きのまま……

 学校から逃げてきた……

 逃げた先は、猫神様の神社。

 ここには、たくさんの猫が何故か集まる。癒される……。

「あんなことするつもりは、なかったんだけどな……」

 にゃぁ?

 猫があちこちから、顔を覗かせている。

「おいで……」

 猫が近寄り、身体を擦り付ける。

「お前達は、自由気ままでいいね。羨ましい」

 優しく身体を撫でると、お腹をみせてくる。私の周りは、猫だらけになった。毛が……

 ひとしきり猫を堪能したあと、自宅へ帰るとママが……

「綾ちゃん、これ。お友達が持ってきてくれた」

 学校のカバンやら外履きやら……

「あなた、お友達と喧嘩でもしたの?」

「そうじゃないけど……」

「あと、これもね」

 いちごミルクにチョコムースに大好きだったゼリーが入ってた。

 でも、いったい誰だろ?ママに聞いてもお友達としか言わなかったし。

 学校、行きたくないな……

 そう願ったのが、良かったのか、悪かったのか……

「今日は、おとなしく寝てなさい」

 39度の熱を出した。

 頭が痛い……


 夢の中に猫と誰かがいた。

 笑って私を呼んでる声がした。

 でも、近づこうとすると何故か離れていって止まる。

 誰だろう?

 伸びた手を掴んだけど、顔が見えない。優しくて、あったかな手だった。

 その手で優しく頭を撫でられた。


「あ、じゃ失礼します。お大事に……」

「ううん。それは、いいんだけど……」

「オレは、アイツを傷つけた。傷つけて、傷つけて悲しませたから……」

「……そう」

 私は、深々とお辞儀をする彼を見送り、小さく溜息をついた。

 恋愛って、こんな苦しかったっけ?
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