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計画に乗った男たち
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「そうなんだ。じゃ、またね」
車の窓から顔を覗かせ、手を振りながら、恭子は自宅近くの曲がり角を曲がっていった。
「はぁっ。疲れた」
恭子と遊ぶのは楽しいが、sexがつまらない。別れよう、別れようと思って、1ヶ月がたった。
静かに車を走らせ、悠哉は、溝口達と待ち合わせをしたBarに向かった。
車を指定パーキングに預け、少し色褪せた扉を押し中へ入る。
「いらっしゃいませ」という少し低めの声を掛け、店員が近付いたが、「待ち合わせだから」と店内を見渡し、軽く手を上げた溝口達の席につく。
「よ、なんだよいったい」
伊藤繁之が、少し赤くなった顔で俺を見上げる。
「うん。まぁ、ちょっとな」軽く言葉を濁し、ジンを口に含んだ。
他愛もない話をしながら、女の話になった。
「俺は、お前が羨ましい」と佐々木が言えば、溝口や伊藤も口々に、「女に飢えてる」だの「いい女に会えねー」だの言う。
「なぁ、お前らに頼みがある」
グラスに残ったジンを飲み干し、継ぎ足しながら、目の前のヤロー共を見る。
「やだ。俺、金ねーよ」
「俺も。バイト辞めたし」
「金なら間に合ってるし」
離れて暮らす実家からは、毎月余る位の仕送りをしてもらってる。隣の市にいるだけなのに。
「お前んとこ、金持ちだもん」
「なーっ!」
純平が同意を求めるように答え、誰もが頷く。
「金あっても、つまんねーよ」
カタンッ…
佐々木が、飲み終わったボトルをテーブルに起き、
「で、なんだよ。頼みって。金じゃねーのはわかったが」
あたりを見回し、周りのテーブルに客が居ないのを確認してから、声を潜めてこう言った。
「な、恭子の奴、犯してくんね?」
途端に静かになり、あたりをピアノ協奏曲フローラに包まれる。
「お前、なんつった?」
「気でも狂ったか?」
「いや、正気だ」そう言い、純平が飲んでいたウォッカトニックを飲み干した。
「おい、それ、俺の…」情けない声をあげつつ、怒りはしないのを皆知っている。
「本気、か?」
「あぁ。」
「嫌なら、普通に別れたらいいだろ?」佐々木は、そう言ったが、前に1度別れる別れないで揉めた事があり、その時恭子は、走ってる車のドアを開けようとしたことがある。
「あれから、なるべくその事に触れようとはしなかったが…」
「女か?」
「そんなとこだ。やるか?それなりの対応はする。金も就職先も。」
目の前に座ってる純平達の目が泳ぎ、空のグラスを飲もうとし再び、テーブルに置く奴もいた。
「返事は、急がん。これは、俺達だけの内々の話だ。その気になったら、連絡してくれ」
全員から連絡がくる確信はあった。伝票を手に取り、席をたとうとする俺を伊藤が止めた。
「俺やる。女に飢えてるのもあるけど、お袋今度手術するから、金必要なんだ」
「…。」
「恭子なら、泣き寝入りするよな?」
「…。」
「あいつ、俺ヤリたかったんだ」
確定だ、と思った。
「純平、お前は?」
顔を俯かせ、空になったグラスをジッと見ていた純平に声をかける。
「い、幾らくれる?」
「逆に聞く。幾らならやってくれる?」ニヤリと笑って純平を見返した。
「100万。それだけあれば、翔を専門に入れられる。」
翔は、純平の3歳したの弟で、いま高校3年だったと思う。
「200出す。それで、いいか、お前ら。」
暫く無言になったが、決まったも同然だ。「詳しい事は、後日話す」といい会計だけを済まして、タクシーで帰った。
それから、数日は恭子にも女にも連絡をしないで、計画を練り上げた。
「見張り役…いたな」くすりと笑うと、俺はある番号に電話を掛け、学校帰りに会う事にした。
その男は、俺が指定した時間よりもだいぶ早くきたのか、アイスコーヒーの氷が完全に溶けていた。
「ここ、いい?」声を掛け、返答を待たずに腰かけた俺を、いまにも死にそうな二つの目が俺を見上げる。
『こいつが?こんな弱そうな奴が?中抜け?』
俺の目の前に座ってる男。いまにも死にそうな目をしてる、男は、名前を誰だったかな?確か…
「渡辺くん?渡辺…」
「こうた、です。」小さくボソボソと話す。
「ここに君を呼んだのは…」
「すいません。俺、俺…」
「…。」
えーと、泣かれても困るのだが。
「最初は、出来心だったんです」こちらから聞く前に、渡辺君は、鼻水を啜りながら、話してくれた。
「困ったね。親父、社長に知られたら…」
「解雇ですよね。その後で、逮捕されて、僕は高い壁の中に入れられて…」
そこまではないだろう、と思ったが。
「そんなにお金ないのか?」親父の話だと、母一人子一人だと言っていたが。
「ない…です。親父が、結構な額の借金残したまま死んで、俺、行きたかった高校やめて、就職したけど、うまく、いかんくて」
中卒じゃ、ロクな扱いされんだろう。哀れだと思った反面、使えると思った。
「なぁ、俺の頼み聞いてくれるか?場合によっちゃ、渡辺君の中抜けの話もなかった事にするし、ちゃんとそれなりの礼はするよ。どうかな?」
「…。」
首は、なかなか縦に振らなかったが、何度か金の話をして、
「はい」勝ったな。
「僕、見張るだけでいいんですよね?」
「あぁ。ちゃんと店には、貼り紙しとくし。間違えて客が入らないようにしてくれればいい」
「でも、それだけであんなお金…」
「お母さん、借金返すのだけで大変なんだろ?少しでも、返済を楽にさせてやらないと、な」内心、俺らがする事よりも安い、と口に出そうになったが、押さえた。
「君は、いつも通り、料理を作ってくれるだけでいい。酒は、俺らが用意するから」
「はい」
渡辺くんは、俺らが友達同士で飲み会をすると信じて疑わなかった。
とりあえず、手打ち金として50万を消費者金融に返済させ、口止め料として、2万渡しておいた。
これで、あとは飲み会に恭子を呼ぶだけだ。あいつにも、口止めしておかないと、な。ニヤリと笑い、車で実家に向かった。
ここでの目的は、母さんが服用している睡眠薬をちょっとだけくすねる目的だった。
「あれ?父さんは?」
「あー、いつものとこ」半ば呆れたように返す。
いつものとことは、愛人さん。俺の知ってる限り、3人かな?
「ほら、阿里沙さん、先月赤ちゃん産んだから」母さんも、前と違って父さんが愛人を作ろうが、子供を認知しようが、文句を言わなくなった。
金って怖いな、といつも思う。
「で、なぁに?今日は」
「用はないさ。近くに大型ショッピングセンター出来ただろ?」
「あそこね。安いし、品数豊富で、迷っちゃう」
買い物が好きで、少し心に病気を抱えてる母さんに取っては、ストレス発散の場所らしい。
「どう、最近は。ちゃんと眠れてる?」
「なんとか、ね。ストレス発散も出来るから、お薬最近飲まない日もあってね。捨ててるの」珍しく母さんの顔に笑みが溢れる。
「ねっ、少しだけ睡眠薬分けてくんない?1錠でいいんだけど」
ダメかも、と思ったが、アッサリと母さんは、睡眠薬を1錠だけくれた。
「あんたも眠れないの?」
「いや、来週隣の部屋が改装工事するから。寝れなかったら、困るし」嘘八百を言い放ち、インスタント食品やら菓子やらを貰い、アパートに帰った。
「別れる前に、ヤッとくかな」
恭子に電話をし、週末ドライブする予定を入れ、女には、俺の計画を話し、将来的な事を考えてると匂わせておいた。
電話を切ると、ニヤニヤ感が止まらなかった。
「久し振りに土曜日に会える。良かった!」
そう思うのも無理はなかった。私から電話しても、会う事に乗り気にならなかった彼から「土曜日にドライブ行かない?」と誘って来たのだ。
「単に忙しかったのか。お母さんも来てるみたいだし」
何はともあれ、明後日の土曜日に何を着てこうか、迷ったがこの間、ママに買って貰ったクリーム色のワンピースを着ることにした。
デート当日。彼は、いつもと同じ場所に居て、煙草を吸っていた。
「悠哉さん、お待たせ」そう言うと、彼は、私の顔を見て、ニコッと笑い、立ち上がった。
「行こっか。恭子」
彼に肩を抱かれながら、停めてあった車に乗り込む。少し話をしながら、車は緩やかに滑り出していった。
「今日は、どこまで行くの?」
「んー、とりあえず湖畔を眺めながら、ランチなんでどう?魚うまかったし」
悠哉さんは、よく友達同士で出掛ける事が多いから、今回もまた、お気に入りの場所なのかな、と思った。
市街地を抜け、車はスピードを出し、目的地のさざ波湖畔に一時間で到着した。
「涼しい」夏の暑さよりも、少しだけ空気の冷たさを感じた。
「だろ」
手を繋ぎ、湖畔の周りを少し歩く。近くで釣りを楽しんでいる親子連れがいた。湖からは、湿った磯の匂いが鼻をくすぐる。
「前にここに来た時は、釣った魚でバーベキューしたんだけど、途中から雨降ってな」彼の話を聞きながら、カフェってリアまで歩いた。
「ほら、危ないから」と席に着くまで優しくエスコートしてくれ、胸が熱くなった。
カフェッテリアでは、おすすめのランチをデザートつきで、楽しんだ。
「紅茶、すごく美味しい」
「うん」
その紅茶は、林檎の甘い香りがしたが、一口飲むとなぜかオレンジみたいな味がした。
「変わってるな」悠哉は、あまりフルーツ系の飲み物を好まない。
ひとしきり、湖畔の周りを楽しみ、ランチに舌をつつみ、車はインターチェンジ付近のラブホテルへ入っていく。
部屋に入ると悠哉は、バスタブにお湯を入れに行き、私は大きな鏡の前で立ち尽くす。「部屋を広く見せる為に鏡が貼られてるのかしら?」と思った。
「恭子。どうかした?」
後ろから抱き締められ、悠哉の手が胸にかかる。
「いえ…」これから何をされるのか、わかっている癖に他の女の子みたいに大胆な事が出来ない。
手は、ひとつひとつボタンを外して行き、鏡の前には下着姿の私がいる。
プツンッ…
ブラを外され、大胆にも胸をゆっくりと揉んでいく悠哉の手が見える。
「悠哉…」
「恭子…」そう耳元で私の名前を呼ぶ声に全身を悠哉に預ける。
悠哉は、ベッドに私を倒すと、自身も服を脱ぎ始め、私に覆い被さってきた。
「愛してる」
ンッ…ンゥッ…
荒々しくもあり、濃厚なキスをし下へ下がっていく。
「あ…」
悠哉の舌が、乳首にあたり、ムグムグさせながら、吸い始める。
んっ!!
「…あ…っ」手が、アソコに…
悠哉の指が、一番敏感な部分を弄り始めた。
「いいよ、声出しても…」
「は…い」身体のその部分は、熱くなるものの、声と言われても…
不感症という訳ではないが、こういう時にどんな声を出せばいいのか、わからない。
「恭子…足広げて」言われた通りに足を広げると、真ん中に悠哉が入り込む。
ズブッ…ズンッ…
軽い衝撃を受けながら、悠哉が私の中に入り、腰を動かし始めた。
「今日は、滑りがいいや」ニヤニヤ笑いながら、強く浅く動く。
んっ…んっ…んっ…
枕の端を掴み、目を閉じる。悠哉は、いまどんな顔をしてるのだろうか?
「恭子?痛い?」
「ううん」そう答えるも身体の力が抜けない。
「わっ!」
いきなり、両足を大きく広げられ、グイグイと悠哉が攻めてくる。ちょっと、痛いけど、我慢しないと…
「恭子…綺麗だよ」悠哉が、何を見てそう言ってるのかわからないけど、ニヤニヤと笑ってるのが、なんとなくわかる。
んっ…んっ…
悠哉が、動く度に声が漏れる。
「凄いね。ユルユルになってきた」耳元でそう囁かれると、恥ずかしくなる。
うっすらと目を開けると、天井に鏡があって、裸の私の上に悠哉の背中が見えて…
「今って、気持ちいいんだ。締め付けてるよ」悠哉が、エッチな言葉を耳元で囁く。
そんなものなのか、と頭の中で思う。気持ちいいと思った事は、あまりなかった。寧ろ、グイグイ攻めてくるのがお腹の奥に響いてくる。
声は自然に出るのに、気持ちいいと感じた事がない。もしかして、不感症なのかな?
悠哉の動きが激しくなり、私の名前を何度も呼ぶ…
「恭子…恭子…イクよ、イクよ」
ガンガン奥にあたり、悠哉の動きが止まり、中が熱くなっていく。
また、中に出したのね。あなたは、いつもそう。私の事なんて、何も考えてないの?ピルは、飲んでるけど…
それも、悠哉が言ったから。「飲んだ方がいい」って…
「恭子…気持ち良かった?」
流石に、わからないから、うん、とだけ言う。
暫く、悠哉の髪を触りながら、落ち着くのを待ち、交代でお風呂に入る。
お風呂に浸かりながら、自分の身体を眺める。身体付きも前より丸くなってきたのに…どうして、sexが気持ちいいと思わないんだろう、と考えるも答えが出ないし、悠哉に相談する事も出来ない。
「花梨に聞いてみようかな?」そう呟き、バスルームを出て戻ったら、悠哉は既に服を着ていて、煙草を吸っていた。
「早いね」
悠哉は、煙草を口にくわえたまま、笑った。
「そうか?疲れた?眠そうだけど」
「ううん。大丈夫」
軽くキスをしながら、悠哉の前で着替える。まだ、恥ずかしさはある。
会計を済まし、車に乗り込む。
「眠かったら、寝てていいから」
「うん」
眠くなる事は、無かったが、悠哉と話をしたり、音楽を聴いたりしてる内に、家の近くについてしまった。
「道が空いてたからな。恭子…」
悠哉の顔が、近付いてきてキスをした。煙草の匂いがする。こういうキスは、好き…
「な、今度俺らで飲み会しない?」悠哉が、不意にそう言った。
「飲み会?でも…」
「大丈夫だよ。夕方から始めて、9時までには終わらせるようにするからさ。門限あるんだろ?」
「うん。いい加減無くして欲しいのにね。」
悠哉の言う「俺ら」は、いつものメンバーか。じゃ、気にしなくてもいいか、で参加する事にしたら、悠哉かなり喜んでた。
思えば、これが私の人生を狂わす事になるだなんて、このとき知るよしもなかった…
車の窓から顔を覗かせ、手を振りながら、恭子は自宅近くの曲がり角を曲がっていった。
「はぁっ。疲れた」
恭子と遊ぶのは楽しいが、sexがつまらない。別れよう、別れようと思って、1ヶ月がたった。
静かに車を走らせ、悠哉は、溝口達と待ち合わせをしたBarに向かった。
車を指定パーキングに預け、少し色褪せた扉を押し中へ入る。
「いらっしゃいませ」という少し低めの声を掛け、店員が近付いたが、「待ち合わせだから」と店内を見渡し、軽く手を上げた溝口達の席につく。
「よ、なんだよいったい」
伊藤繁之が、少し赤くなった顔で俺を見上げる。
「うん。まぁ、ちょっとな」軽く言葉を濁し、ジンを口に含んだ。
他愛もない話をしながら、女の話になった。
「俺は、お前が羨ましい」と佐々木が言えば、溝口や伊藤も口々に、「女に飢えてる」だの「いい女に会えねー」だの言う。
「なぁ、お前らに頼みがある」
グラスに残ったジンを飲み干し、継ぎ足しながら、目の前のヤロー共を見る。
「やだ。俺、金ねーよ」
「俺も。バイト辞めたし」
「金なら間に合ってるし」
離れて暮らす実家からは、毎月余る位の仕送りをしてもらってる。隣の市にいるだけなのに。
「お前んとこ、金持ちだもん」
「なーっ!」
純平が同意を求めるように答え、誰もが頷く。
「金あっても、つまんねーよ」
カタンッ…
佐々木が、飲み終わったボトルをテーブルに起き、
「で、なんだよ。頼みって。金じゃねーのはわかったが」
あたりを見回し、周りのテーブルに客が居ないのを確認してから、声を潜めてこう言った。
「な、恭子の奴、犯してくんね?」
途端に静かになり、あたりをピアノ協奏曲フローラに包まれる。
「お前、なんつった?」
「気でも狂ったか?」
「いや、正気だ」そう言い、純平が飲んでいたウォッカトニックを飲み干した。
「おい、それ、俺の…」情けない声をあげつつ、怒りはしないのを皆知っている。
「本気、か?」
「あぁ。」
「嫌なら、普通に別れたらいいだろ?」佐々木は、そう言ったが、前に1度別れる別れないで揉めた事があり、その時恭子は、走ってる車のドアを開けようとしたことがある。
「あれから、なるべくその事に触れようとはしなかったが…」
「女か?」
「そんなとこだ。やるか?それなりの対応はする。金も就職先も。」
目の前に座ってる純平達の目が泳ぎ、空のグラスを飲もうとし再び、テーブルに置く奴もいた。
「返事は、急がん。これは、俺達だけの内々の話だ。その気になったら、連絡してくれ」
全員から連絡がくる確信はあった。伝票を手に取り、席をたとうとする俺を伊藤が止めた。
「俺やる。女に飢えてるのもあるけど、お袋今度手術するから、金必要なんだ」
「…。」
「恭子なら、泣き寝入りするよな?」
「…。」
「あいつ、俺ヤリたかったんだ」
確定だ、と思った。
「純平、お前は?」
顔を俯かせ、空になったグラスをジッと見ていた純平に声をかける。
「い、幾らくれる?」
「逆に聞く。幾らならやってくれる?」ニヤリと笑って純平を見返した。
「100万。それだけあれば、翔を専門に入れられる。」
翔は、純平の3歳したの弟で、いま高校3年だったと思う。
「200出す。それで、いいか、お前ら。」
暫く無言になったが、決まったも同然だ。「詳しい事は、後日話す」といい会計だけを済まして、タクシーで帰った。
それから、数日は恭子にも女にも連絡をしないで、計画を練り上げた。
「見張り役…いたな」くすりと笑うと、俺はある番号に電話を掛け、学校帰りに会う事にした。
その男は、俺が指定した時間よりもだいぶ早くきたのか、アイスコーヒーの氷が完全に溶けていた。
「ここ、いい?」声を掛け、返答を待たずに腰かけた俺を、いまにも死にそうな二つの目が俺を見上げる。
『こいつが?こんな弱そうな奴が?中抜け?』
俺の目の前に座ってる男。いまにも死にそうな目をしてる、男は、名前を誰だったかな?確か…
「渡辺くん?渡辺…」
「こうた、です。」小さくボソボソと話す。
「ここに君を呼んだのは…」
「すいません。俺、俺…」
「…。」
えーと、泣かれても困るのだが。
「最初は、出来心だったんです」こちらから聞く前に、渡辺君は、鼻水を啜りながら、話してくれた。
「困ったね。親父、社長に知られたら…」
「解雇ですよね。その後で、逮捕されて、僕は高い壁の中に入れられて…」
そこまではないだろう、と思ったが。
「そんなにお金ないのか?」親父の話だと、母一人子一人だと言っていたが。
「ない…です。親父が、結構な額の借金残したまま死んで、俺、行きたかった高校やめて、就職したけど、うまく、いかんくて」
中卒じゃ、ロクな扱いされんだろう。哀れだと思った反面、使えると思った。
「なぁ、俺の頼み聞いてくれるか?場合によっちゃ、渡辺君の中抜けの話もなかった事にするし、ちゃんとそれなりの礼はするよ。どうかな?」
「…。」
首は、なかなか縦に振らなかったが、何度か金の話をして、
「はい」勝ったな。
「僕、見張るだけでいいんですよね?」
「あぁ。ちゃんと店には、貼り紙しとくし。間違えて客が入らないようにしてくれればいい」
「でも、それだけであんなお金…」
「お母さん、借金返すのだけで大変なんだろ?少しでも、返済を楽にさせてやらないと、な」内心、俺らがする事よりも安い、と口に出そうになったが、押さえた。
「君は、いつも通り、料理を作ってくれるだけでいい。酒は、俺らが用意するから」
「はい」
渡辺くんは、俺らが友達同士で飲み会をすると信じて疑わなかった。
とりあえず、手打ち金として50万を消費者金融に返済させ、口止め料として、2万渡しておいた。
これで、あとは飲み会に恭子を呼ぶだけだ。あいつにも、口止めしておかないと、な。ニヤリと笑い、車で実家に向かった。
ここでの目的は、母さんが服用している睡眠薬をちょっとだけくすねる目的だった。
「あれ?父さんは?」
「あー、いつものとこ」半ば呆れたように返す。
いつものとことは、愛人さん。俺の知ってる限り、3人かな?
「ほら、阿里沙さん、先月赤ちゃん産んだから」母さんも、前と違って父さんが愛人を作ろうが、子供を認知しようが、文句を言わなくなった。
金って怖いな、といつも思う。
「で、なぁに?今日は」
「用はないさ。近くに大型ショッピングセンター出来ただろ?」
「あそこね。安いし、品数豊富で、迷っちゃう」
買い物が好きで、少し心に病気を抱えてる母さんに取っては、ストレス発散の場所らしい。
「どう、最近は。ちゃんと眠れてる?」
「なんとか、ね。ストレス発散も出来るから、お薬最近飲まない日もあってね。捨ててるの」珍しく母さんの顔に笑みが溢れる。
「ねっ、少しだけ睡眠薬分けてくんない?1錠でいいんだけど」
ダメかも、と思ったが、アッサリと母さんは、睡眠薬を1錠だけくれた。
「あんたも眠れないの?」
「いや、来週隣の部屋が改装工事するから。寝れなかったら、困るし」嘘八百を言い放ち、インスタント食品やら菓子やらを貰い、アパートに帰った。
「別れる前に、ヤッとくかな」
恭子に電話をし、週末ドライブする予定を入れ、女には、俺の計画を話し、将来的な事を考えてると匂わせておいた。
電話を切ると、ニヤニヤ感が止まらなかった。
「久し振りに土曜日に会える。良かった!」
そう思うのも無理はなかった。私から電話しても、会う事に乗り気にならなかった彼から「土曜日にドライブ行かない?」と誘って来たのだ。
「単に忙しかったのか。お母さんも来てるみたいだし」
何はともあれ、明後日の土曜日に何を着てこうか、迷ったがこの間、ママに買って貰ったクリーム色のワンピースを着ることにした。
デート当日。彼は、いつもと同じ場所に居て、煙草を吸っていた。
「悠哉さん、お待たせ」そう言うと、彼は、私の顔を見て、ニコッと笑い、立ち上がった。
「行こっか。恭子」
彼に肩を抱かれながら、停めてあった車に乗り込む。少し話をしながら、車は緩やかに滑り出していった。
「今日は、どこまで行くの?」
「んー、とりあえず湖畔を眺めながら、ランチなんでどう?魚うまかったし」
悠哉さんは、よく友達同士で出掛ける事が多いから、今回もまた、お気に入りの場所なのかな、と思った。
市街地を抜け、車はスピードを出し、目的地のさざ波湖畔に一時間で到着した。
「涼しい」夏の暑さよりも、少しだけ空気の冷たさを感じた。
「だろ」
手を繋ぎ、湖畔の周りを少し歩く。近くで釣りを楽しんでいる親子連れがいた。湖からは、湿った磯の匂いが鼻をくすぐる。
「前にここに来た時は、釣った魚でバーベキューしたんだけど、途中から雨降ってな」彼の話を聞きながら、カフェってリアまで歩いた。
「ほら、危ないから」と席に着くまで優しくエスコートしてくれ、胸が熱くなった。
カフェッテリアでは、おすすめのランチをデザートつきで、楽しんだ。
「紅茶、すごく美味しい」
「うん」
その紅茶は、林檎の甘い香りがしたが、一口飲むとなぜかオレンジみたいな味がした。
「変わってるな」悠哉は、あまりフルーツ系の飲み物を好まない。
ひとしきり、湖畔の周りを楽しみ、ランチに舌をつつみ、車はインターチェンジ付近のラブホテルへ入っていく。
部屋に入ると悠哉は、バスタブにお湯を入れに行き、私は大きな鏡の前で立ち尽くす。「部屋を広く見せる為に鏡が貼られてるのかしら?」と思った。
「恭子。どうかした?」
後ろから抱き締められ、悠哉の手が胸にかかる。
「いえ…」これから何をされるのか、わかっている癖に他の女の子みたいに大胆な事が出来ない。
手は、ひとつひとつボタンを外して行き、鏡の前には下着姿の私がいる。
プツンッ…
ブラを外され、大胆にも胸をゆっくりと揉んでいく悠哉の手が見える。
「悠哉…」
「恭子…」そう耳元で私の名前を呼ぶ声に全身を悠哉に預ける。
悠哉は、ベッドに私を倒すと、自身も服を脱ぎ始め、私に覆い被さってきた。
「愛してる」
ンッ…ンゥッ…
荒々しくもあり、濃厚なキスをし下へ下がっていく。
「あ…」
悠哉の舌が、乳首にあたり、ムグムグさせながら、吸い始める。
んっ!!
「…あ…っ」手が、アソコに…
悠哉の指が、一番敏感な部分を弄り始めた。
「いいよ、声出しても…」
「は…い」身体のその部分は、熱くなるものの、声と言われても…
不感症という訳ではないが、こういう時にどんな声を出せばいいのか、わからない。
「恭子…足広げて」言われた通りに足を広げると、真ん中に悠哉が入り込む。
ズブッ…ズンッ…
軽い衝撃を受けながら、悠哉が私の中に入り、腰を動かし始めた。
「今日は、滑りがいいや」ニヤニヤ笑いながら、強く浅く動く。
んっ…んっ…んっ…
枕の端を掴み、目を閉じる。悠哉は、いまどんな顔をしてるのだろうか?
「恭子?痛い?」
「ううん」そう答えるも身体の力が抜けない。
「わっ!」
いきなり、両足を大きく広げられ、グイグイと悠哉が攻めてくる。ちょっと、痛いけど、我慢しないと…
「恭子…綺麗だよ」悠哉が、何を見てそう言ってるのかわからないけど、ニヤニヤと笑ってるのが、なんとなくわかる。
んっ…んっ…
悠哉が、動く度に声が漏れる。
「凄いね。ユルユルになってきた」耳元でそう囁かれると、恥ずかしくなる。
うっすらと目を開けると、天井に鏡があって、裸の私の上に悠哉の背中が見えて…
「今って、気持ちいいんだ。締め付けてるよ」悠哉が、エッチな言葉を耳元で囁く。
そんなものなのか、と頭の中で思う。気持ちいいと思った事は、あまりなかった。寧ろ、グイグイ攻めてくるのがお腹の奥に響いてくる。
声は自然に出るのに、気持ちいいと感じた事がない。もしかして、不感症なのかな?
悠哉の動きが激しくなり、私の名前を何度も呼ぶ…
「恭子…恭子…イクよ、イクよ」
ガンガン奥にあたり、悠哉の動きが止まり、中が熱くなっていく。
また、中に出したのね。あなたは、いつもそう。私の事なんて、何も考えてないの?ピルは、飲んでるけど…
それも、悠哉が言ったから。「飲んだ方がいい」って…
「恭子…気持ち良かった?」
流石に、わからないから、うん、とだけ言う。
暫く、悠哉の髪を触りながら、落ち着くのを待ち、交代でお風呂に入る。
お風呂に浸かりながら、自分の身体を眺める。身体付きも前より丸くなってきたのに…どうして、sexが気持ちいいと思わないんだろう、と考えるも答えが出ないし、悠哉に相談する事も出来ない。
「花梨に聞いてみようかな?」そう呟き、バスルームを出て戻ったら、悠哉は既に服を着ていて、煙草を吸っていた。
「早いね」
悠哉は、煙草を口にくわえたまま、笑った。
「そうか?疲れた?眠そうだけど」
「ううん。大丈夫」
軽くキスをしながら、悠哉の前で着替える。まだ、恥ずかしさはある。
会計を済まし、車に乗り込む。
「眠かったら、寝てていいから」
「うん」
眠くなる事は、無かったが、悠哉と話をしたり、音楽を聴いたりしてる内に、家の近くについてしまった。
「道が空いてたからな。恭子…」
悠哉の顔が、近付いてきてキスをした。煙草の匂いがする。こういうキスは、好き…
「な、今度俺らで飲み会しない?」悠哉が、不意にそう言った。
「飲み会?でも…」
「大丈夫だよ。夕方から始めて、9時までには終わらせるようにするからさ。門限あるんだろ?」
「うん。いい加減無くして欲しいのにね。」
悠哉の言う「俺ら」は、いつものメンバーか。じゃ、気にしなくてもいいか、で参加する事にしたら、悠哉かなり喜んでた。
思えば、これが私の人生を狂わす事になるだなんて、このとき知るよしもなかった…
応援ありがとうございます!
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