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「凛ーっ! ちょっと頼まれてくれる?」

 勉強をしてるとお姉ちゃんが、部屋に入ってきた。

「なに?」

 勉強の手をやめ、ベッドに腰掛けたお姉ちゃんを見る。

「啓吾、いや、啓吾くんがね、風邪ひいて寝込んでるんだけど……。」

 え?田中さん、風邪ひいたの?!

「うん。で?」

「お粥とか作ったから、持ってってくれない? 暇でしょ?」

「……。」

 勉強してますが?

 お姉ちゃん、田中さんしかある意味見えてない。

「はいはい。届ければいいんだね? で、お婆ちゃんどうなの?」

 お姉ちゃんは、ホントは田中さんの看病に行きたいらしいけど、ママのお婆ちゃんが転んで入院したから、そっちに行くと。

 すいませんね。頼りにならなくて……。

「わかったよ。お粥と薬とポカリだけ?」

「そ。かなり、しんどそうみたいだし。自分で食べられなさそうだったら、食べさせてあげてね。」

「うん。」

 行ったことはないけど、田中さんの住所と電話番号は、何かあった時の為に、お姉ちゃんが教えてくれた。

「あ、タクシーきたから、頼んだわよ。」

 お姉ちゃんを見送って、私は部屋着から着替えた。

「これなら、寒くはないかな?」

 看病に行くのに、何故、おしゃれする?と思ったけど……。

「熱、高いのかなぁ?」

 幸いにも、田中さんのアパートは迷うことなく行けた。

 行けた……。

 けど、なんで?

 田中さんの部屋らしき部屋から、なぜ可、渡瀬先生が出て来て……。

 渡瀬先生が、見えなくなってから、私は静かに田中さんの部屋の前に立ち、チャイムを押した。

 ピンポーンという軽い音がしたと思ったら、ドアが、いきなり開いて……。

「しつこいぞ、渡瀬!」

「……。」

 怒った田中さんが、出てきた。

「なんだ、凛ちゃんか……。あ、なんかくるとか来てたな。」

「はい。頼まれて来ましたけど、入っていいですか?」

 中に入れてもらい、私は着ていたコートを脱いだ。


「田中さん、なんかあったんですか?」

 流石に、渡瀬先生を見たとは言えなかったけど。

「いや、なんでもない。寒いな……。」

「田中さん。食欲ありますか? お姉ちゃん、お粥作ったから……。」

 レンジで少し温めたのを茶碗に移して、目の前においた。

「ありがとう。そういや、おばあさんどうなの? 怪我したって?」

 田中さんは、お粥をゆっくり食べながら、入院したお婆ちゃんの事を聞いてきた。

「おじさん、いま仕事で県外行ってるからね。」

 一人暮らしの男性って、少し大雑把なのかな?服や雑誌が散らかってたり、食器も……。

「あ、熱は? お薬、持ってきましたけど……。」

「たぶん、大丈夫かな。」

 田中さん、自分のおでこに手を当ててたけど、お姉ちゃんが渡してくれた袋の中に真新しい体温計があって、それで測った。

「38℃かー。ま、俺が明日休みにしてもらったから、いっか。」

 お粥を食べて、薬を飲んで貰って、そのまま休んで貰ったら、疲れているのか、寝てしまったみたい。

 起こさないように、簡単に部屋を片付けたり、洗濯をしたり、食器を洗ったりした。

「どうかな?」

 田中さんを起こさないように、おでことおでこをくっつけると……。

「……。」

「起きちゃいました?」

 起こしてしまったらしく……。

 暫く無言……。

「ありがとう。」

「いえ。あの……っ」

「なに?」

 ベッドから、起き上がろうとした田中さんに、

「もう少しここにいてもいいですか?」と言ったら、困ったような顔をしたけど、断られる事はなかった。

「テレビでもみるなら、そこにリモコンあるから……。」

 でも、私はテレビを見ることなく、ベッドで寝てる田中さんの側にいた。

 好きな人の部屋にいるんだ。

 今日は、風邪をひいてお見舞いに来てるけど……。

 もし、風邪引いてなかったら……。と、思ったけど、私と田中さんは、付き合ってもいないし、むしろ、田中さんは、お姉ちゃんの婚約者だから。

 それから、暫くしたら私まで寝ちゃったらしく、目を覚ましたら隣に田中さんがいて、驚いた。

「なんか、少し落ち着いた? お薬が効いたのかも……。」

 慌てて早口で言う私に、田中さんは優しく頭を撫でてくれた。

「大きくて、柔らかな手ですね……。」

「そう? 普通じゃない?」

 服越しに感じる体温。

 田中さんの息遣いや声。

「……ちゃん。好きだよ……。」

 顔が近付いて、唇が触れた。

「田中、さん……。」

 けど……。

「いや、違うんだ。これは……。」

 お姉ちゃんと間違えたのかな。

「か、帰る……。」

 立ち上がろうとした私を田中さんが、手を引っ張ったから……。

 ガタンッとテーブルが、足にぶつかって……。

 田中さんの上に私が……。

 無言で見つめる。

 近付く顔……。

 長く長く触れる唇。

 私、田中さんに自分からキスしてる!

 でも、田中さん離そうともしない。

「凛……ちゃん。」

 田中さんの手が、背中に回って、強く抱きしめられて、キスした。

 好き……。

 大好き……。

「凛ちゃん……。」

 顔を離して、また長いキス……。

 何度も何度も……。


 そして……。

「馬鹿ねぇ。風邪の看病に行って、風邪貰ってくるだなんて。いいわ、今日は学校お休みして寝てなさい。」

「ふぁい……。」

 お姉ちゃんには、言える訳がない。

 田中さんとキスしただなんて。

 それに、ふたりの秘密って約束したから……。

 田中さんからPAINきたけど、お姉ちゃんから伝わってるのか、お大事にとのお返しがきてた。

 学校を3日間休んだだけで、授業がわからなくなった私は、放課後先生や優愛に補習めいたことをお願いした。
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