遅漏VS即イキアナルの攻防

ミツミチ

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 バイトの代打を頼まれ、深夜まで働いてから帰路につく。自宅の前に彼が立っていた。
「なんで」
 懇親会は。すっぽかしてきたのか。不意に逃げたい気持ちに駆られたが、ぐっと抑えて歩み寄る。
「せめて連絡くださいよ」
 恭司が顔を上げる。
「いつからここにいたんですか」
「ついさっき。空港から直接」
「嘘だ。ぜったいかっこつけて言ってるだろ」
 恭司が小さく笑う。その穏やかな瞳から逃げるように目をそらした。
「とりあえず、入ってください」



 見慣れないスーツ姿。ずしりと降ろされた荷物。空港から直接きたのは事実なんだろうが。
「昨日はすみませんでした」
 ジャケットをハンガーに掛ける彼を横目に、ベッドの隅へ腰掛けた。
「もう変なこと言わないんで」
 だから、嫌いにならないでください。
 別れ話の覚悟をしたとはおもえないほど、浮かぶ台詞はクソほど重くて、音になる前に喉奥ですり潰した。
「それで」
 恭司が尋ねた。
「おまえの本音は?」
 本音もなにもない。そう誤魔化すにしては、彼の見透かしたような瞳の前では分がわるい。
「おれが戻ってきてからのことだけが引っかかってるって顔じゃないだろ」
「いやです」
「は?」
「言いたくない」
 恭司は眉を寄せ、
「これ以上、あんたに醜態晒したくない」
「……今更」
 高校の時のこと忘れたのか。そう言って瞬に向きなおった。
「む、昔のこと引き合いに出してくんのやめてください。あの時は子どもだったんです。だからなりふり構わずに駄々をこねていられましたけど、もう大人になったんです、おれ」
「……十八のガキが何言ってんだ」
「二歳しか変わんないのに、いつまでもガキ扱いしないでくださいっ」
 声を荒げてベッドから立ち上がる。一方で動じず、淡々とネクタイを外す彼にかっと頬が熱くなった。
「む、ムカつく」
 下ろした腕の先で、
「ほんとに、いつも、おればっかりで」
 両の拳を固く握りしめた。
「あんたに突っかかっていたのもおれ、好きだって告白したのもおれ、キスもセックスも、おれがしたいってねだって、そんなんばっかりだ」
 声が震える。もう黙れよ。そう思うのに止まらない。
「おれひとり必死になって、こんなとこまであんたのケツ追いかけてきて、それでも、ようやくこれでしばらくは一緒にいられると思ったのに」
 視界に捉えた恭司の姿がゆがみ、
「なんでまた、おれのこと置いて、どっか行っちゃおうとするんですか」
 目尻から熱い雫がこぼれた。
「おれだけですか。寂しいの。もっと一緒にいたいと思ってるの」
 いやだ、海外なんて行かないで。胸の奥に潜めた言葉までついと漏れでて、
「行っちゃうんでしょ。来年にも。そうしたらまた、おれ」
 頬が、温かい手に包まれた。
 涙を拭う優しい指先に、相反する落ちつきに、ひとり喚く自分が余計に惨めにおもえた。
「う゛~~~っおれこんなんじゃないのにっ、あんたの前でだけいっつも格好つかないの、悔しい」
「お前はいつもこんなだろ」
「だからそれあんたの前だけなんだってっ。知ってるだろ、恭司さんだって」
「……ああ。そうだな」
 彼のような冷静な人間でありたかった。
 取り澄ました表情で、いってらっしゃいと言える恋人でありたかった。
「こんなふうに、おれの前でだけ、めまぐるしく表情を変えるお前が好きだ」
 不意打ちだった。
「な、なん」
「言葉足らずでわるかったな」
 おもわず一歩、後ずさる。
「不安にさせて悪かった。俺はお前の好意に甘えてたな」
 もう一歩。下がった足がベッドの脚にぶつかった。
「い、嫌じゃないんですか? 恭司さん、こういう面倒くさいの、かわいいとかって思うタイプでもないでしょ」
「かわ……いいかは知らないが、そういうところも含めて好きになってる。面倒くさいとも思わない」
 更に横へ逃げようとしたところを阻まれて、
「お前に求められることが、イヤなわけないだろ」
 向けられる真摯な眼差しに、頬がじりじりと熱くなる。
「そんな、ずるい、おれだって求められたい」
「いいのか?」
「え?」
「俺からいくと、お前はすぐ逃げるだろ」
 玄関前。彼の姿を見た途端に竦んだ足を思いだすが、
「に、逃げない、逃げませんから」
 服の裾を引き、キスをする。
「……もっとください」
 答えるように唇が被さった。 





 舌を絡ませながら、ベッドへなだれこむ。
「んんっ、ん……ッ」
 甘く吸いつかれ、ぞわりと走る感覚に落ちかけた顎を掴みあげられた。
「ッ、ッ……ん、っぅ゛」
 厚い舌が腔内の深くまでを満たす。呼吸の隙もなく密に貪られ、ふうふうと荒く上下する胸元に触れた手が突起をなぞった。性急な動作に頭を軽く振るった。
「……は、あっ、あの、どうしますか、睡眠姦にしますか?」
「するわけないだろ」
 手を取られ、掌に唇が落とされた。
「お前の反応がないのになんの意味があるんだ」
「じゃ、じゃあ、どうしましょう。ほかにも案はいろいろあって」
「お前の提案にはさんざん付き合ったろ」
 つ、と舌が這わされる。咄嗟に引きかけた体を叱するように、指の隙間からのぞく、切れ長の瞳。
「今日は俺にさせろよ」


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