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しおりを挟む「あぁあ、あっ……!」
シーツを掻いていた爪が滑る。
「ッ、も、イく、イくっ……」
縋るものを失くした手を拳に変え、駆けぬけた衝撃に背を逸らす。その間も止まらない背後からの猛追に、振り返ろうとしたところで、
「ま、待って、まってください」
角度を変えたそれに弱いところを突かれてベッドに落ちた。
「ッ~~~ひ、ぁ゛♡ だっ、だめっ♡ ま、またっ、またイきます、いくっ、い゛、ッ」
びくびくと尻を震わせ、絶頂に達する。あたまが、脳内が快感に塗りつぶされる。ペニスを抜かれ、シーツに伏した体をひっくり返された。
「っ、はっ、あ……も、恭司さん、ほんとにおれ、もう」
ぐずぐずになった顔で訴える。もう何度達したかわからない。出すものも尽き、力なく腹に垂れるペニス。一方で後孔に充てがわれる、ギンギンに滾った熱。くちりと窄まりを割る肉棒に、ひっと声が漏れた。だ、だめだ。こんなの、これ以上されたら、もう、
「まっ……じ、でおれしにますって!!!」
生命の危機に、ついに足が出た。
ドアの開く音に、つられるように顔を上げた。
タオルを首にかけた男がのそのそとこちらに歩み寄り、
「……鼻血、止まりました? よかっ」
ベッドに腰掛ける瞬の鼻をキュッと摘んだ。
「んぶぶ」
「普通、恋人の顔面をここまで全力で蹴れるか?」
ピンッと弾くように解放される。瞬は鼻をさすりながら当の恋人を見上げた。
「だ、だって」
恭司さんが止まってくれないから。
「止めただろ。何回も。お前がイくたびに。止まれっつったら止めてた」
ぎしりとスプリングが軋む。腰掛けた恭司の、濡れたまま、首筋に貼りつく髪。
「おい。聞いてるか」
「あ、はい」
「お前、寸止めってされたことあるか?」
「あるかないかで言ったらないですね」
「今度やるか。十回以上されるとあれ、射精のことしか考えられなくなるぞ」
「恭司さん。射精のことしか考えられなくなってたんですか? あは、あの恭司さんが? やば、うぶっ」
顎を掴まれた。すみません、と繰り返す内に放してもらえたが。再三の寸止め。その辛さが想像できないわけじゃない、ないのだけど。うなだれかけたつむじに向けられた、恭司の静かな視線。
「あの、まさかまだ疑ってます?」
「……いや」
「違いますって。おれ、正直に言ったじゃないですか。ほんとに」
羞恥に拳を握り、きっと眦を上げた。
「ほんとにっ、あんたとヤるために自分で開発してたら、すげーモロ感になっちゃったんですよ……!」
事の始まりは二ヶ月前。
それは夜。あれは初夜。数年の紆余曲折の末に成就した恋。逢瀬を重ねた先の熱い夜は、言い訳のしようもなく失敗に終わった。
はいらない。
入らないことには始まらないのに。愛撫の時点では歓ぶ素振りさえ見せたくせに、ペニスとなるとうんともすんとも言わずにアナルは口を閉ざした。落ちこむ瞬の背を撫で、恭司はまた今度な、と言ってくれたが、その今度がしばらく来ないことを瞬は知っていた。そうして彼がこの地を離れた二ヶ月の間に、瞬は寝る間も惜しんで人体を学び、日々訓練を重ねた。結果持ち前の器用さも預かって、現在の即イキモロ感アナルが完成したのだった。
「見せたじゃないですか。おれのエグい検索履歴も、大中小のディルドも。だれの手も借りてない。おれが、おれの手でやり遂げた結果ですよ」
「だから、そこはもう疑ってねーって」
まさかそれが、逆にセックスの弊害になるとは思っておらず。
「恭司さんが遅漏だったのも誤算でした」
「……それは、まあ、わるい」
モロ感すぎるアナルと、遅漏のペニス。
ある意味では相性最悪なのでは……?よぎる予感に蓋をして、隣の彼をそろりと伺う。
結局、彼はイッてない。
「あの、口でします」
させてください、と股間に伸ばした手を取られ、
「今日はもういい。寝ろ」
ベッドに転がされ、ついで彼の腕に包まれる。二ヶ月ぶりの体温に、こわばった気持ちがほぐされていく。一方で、やっぱり最後までしたかったな、と繋がりを求める想いも肥大するが、そもそもに。最後まで、できるのだろうか。
なんとなくいい心地で眠ろうとしていたが、根本的になにも解決していない。挿入はクリアした。だが攻め手側の射精をもって一回のセックスとしてカウントするのであれば、できてない、し、このままでは、一生セックスできない……?
セックスレス。それは不貞の最たる原因だった。せっかく恋人になれたのに。そんなことで彼を失いたくない。自分はもはや、この腕の体温を失うことを想像できないのに。
瞬は燃えた。自らのアナル開発をこなした彼にとって、もはや何に対してもハードルはなかった。
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