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限界××編
3-7
しおりを挟む「あのガキ、颯介のことが好きなんだろ」
目覚めたときには、もうすっかり陽が落ちていた。くすりの抜けた気怠いからだを起こし、颯介はベッドの端に腰かけながらシャツのボタンを留めていた。その手を止めて、勉強机の椅子にまたがった友人を見上げた。首筋の痕に触れてから、岳はどこか様子がおかしかった。
「どうすんだよ」
冷えた視線に答えを急かされる。
「ちゃんと、話する」
「はなし?」
「奏多のこと、おれ、今までそういう目で見てこなかったって」
「は? なんだそれ。なにをそんなまじめに……お前が怒鳴って縁切って、それで終わりだろ」
吐き捨てるような言い方だった。
「そんな、それは違うだろ。今日だってお互い冷静な状態じゃなかった。ちゃんと話をして、おれの気持ちを伝える。そうしないと奏多もひかないと思う、きっとこんなことするくらい……そう、なのに」
「こんなことするくらいって何? むしろ逆だろ。こんなことするやつと、お前」
岳はくしゃりと髪を掻き乱した。
「フるための言い訳がないなら、おれと付き合うか」
颯介は目を丸くして岳をみた。しかし視線は噛み合わず、胸がちくりと痛んだ。
「それならアイツだっていさぎよく諦めるだろ」
「……そんなん誠実じゃない。うそじゃんか」
「嘘でもいいだろ。またいざ対面してさ、今日と同じようなことになって、それで次は逃げられなかったらどうする? 嘘でもいいからさっさと突き放したほうが絶対にいい」
「奏多のしたことは確かにわるいことだけど、気持ちは本物だろ。本気でおれのことがすきだって、そう言ってた。ならちゃんとおれも真面目に考えて返してやらないといけないのに、嘘で返すなんてだめだ」
「だからお前、それ甘すぎるって。あいつが既にズルしてんじゃん。お前に嘘ついて、おまえの意思を無視したことしてんのにさ、話が通じる相手か? なんで今後に及んで真摯に向きあおうとしてんの? まじめに考えてやる道理もないだろ」
「岳は知らないだろうけど、あいつ……奏多はほんとは、ほんとにまじめなやつなんだよ」
「なんだそれ」
掠れた笑いが落ちる。嘲るようなそれは聞いたことのない類の声色だった。
「二人のことに部外者の俺が口出して悪かったな。好きにしろよ」
ちがう。そういう意味じゃない。言いかけて喉が詰まった。
「や……わるい。おれがお前を、巻き込んだんだよな」
岳は颯介と視線を交わさないままに、おまえは悪くないよ、とだけ言った。
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