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限界××編
3-1
しおりを挟む臉をひらくと、まさに目の前に幼馴染の顔があった。
「おわっ!?」
「おはよう。颯兄」
咄嗟に起きあがろうとするも、軋むだけの肩。ベッドに繋がれた手。久々に踏みいった、奏多の部屋。
つまり、なんだ。
「お、おはよう?」
「うん」
「奏多、あの、これ外して」
ほしいと言い切る前に「だめ」と一蹴された。
「そうしたら颯兄、逃げるだろ?」
その表情はたしかに笑顔のはずなのに。
「な、なんか怖いって。逃げないから外せよ。なんでこんなこと、」
「すきだから」
奏多は明々とした口調で答えた。
「颯兄がすきだよ」
ベッドのスプリングが軋む。
「ずっと前から好きだった。だけど颯兄、おれのこと弟としかおもってないし、女の子がすきだし。諦めようとしたけど無理だった。だからなし崩しでもおれの手の内に落ちてきてほしくて、こんなことした」
吐息があつい。奏多のでなく、自分の吐く息が不自然な熱を孕んでいることにその時気がついた。
「わ、かった。でも、だからってこんなことしちゃだめだ」
「どうして?」
ふつうに告白したってフラれるだけなのに、と目蓋を伏せてそっと見下ろす。
「……颯兄」
至近距離で視線が重なった。しかしそれも一瞬のことで、奏多はそのままコツンと胸元に額を押し当てた。
「おれのこと選んで。絶対に後悔させない。だれよりも幸せにするから」
幼い時分から知っている。成長もこの目で見てきたはずの顔が、声が、体温が、別人にすり替わる。あまりに切ない声色になにか口走ってしまいそうになるが、きっとそこに彼の求める答えはなかった。
「……な。とりあえずこれ解けよ、ちゃんと話をっ、」
首筋に落ちた唇。ちゅ、と肌を吸われる感覚に身を捩る。
「だ、めだって、奏多っ」
「颯兄はあいつの方がいい?」
「なん、なに」
「だからそっちに行くんだよな」
胸の突起を掠めた指に大げさに肩が跳ね上がる。
「奏多、待って、まて……っ!」
服の上から優しく掻かれる。そんな些細な愛撫が性感と直結して、びりびりと背筋を震わせた。下肢の一点に集まる熱。上擦る吐息。微熱めいた火照り。明らかに異常だった。
「効いてきた? どこもかしこもきもちよくって、熱くて仕方ないだろ」
「なに、うっ……」
胸をつたい落ちていく手のひら。颯介は沸き立つ欲を否定するようにかぶりを振った。
「やめろって、奏多っ! おれのこと好きだって言うなら尚更、こんなことしたらお前の方が後悔するっ、ぜったい、っ……!」
続く台詞を奪うように唇が重なった。無防備な口唇を割って入った舌が上顎を伝い、その深くまでを満たしていく。
「んっ……んぅ゛、……っ」
喉奥に触れた舌がなにかを落とした。必死に押し返そうとも、颯介がそれを嚥下してしまうまで奏多は離れなかった。
「はっ……、な、なに」
「もっと颯兄がだめになってから、また来るから」
しばらく我慢してて、とだけ言ってベッドから下りて平然と扉へと向かうその背に、なにか、なにか言わなければと口を開いたが、濁った頭は最適解を見逃した。
ひとり部屋に残されてすぐ、体内を巡る火照りが速度を上げて全身を蝕みはじめた。首を捻りベッドと手首を繋ぐ戒めを視界にいれる。背を反らし、腕を曲げて縄の結び目に噛みつく。固く結ばれたそれを歯先に挟み、ぐいぐいと手前に引っ張る。無理な体勢に背が攣りそうになっても何度も何度も試みた。
奏多の部屋の窓と、自室のベランダはほんの一歩の距離で繋がっていた。すこし前までは簡単に行き来していたその距離が、その一歩が、いつの間に、どうしてこんなに遠くなったのか。口内に染みる縄の味を噛み締めながら呆然と考えていた。
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