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乳首編
1-6
しおりを挟むはっと目が覚めた。
「……はよ」
カーテンの隙間から、夕陽が漏れている。
「体調どう?」
ベッド横の椅子に座った友人に聞かれてはじめて、乳首の存在を思いだした。体を蝕む疼きはすっかり消えている。
「だ、大丈夫。もうなんともない」
「そ。よかった」
颯介は自分がしっかり制服を着こんでいることに気がつく。ベッドのシーツも整えられていた。
「……これ、着せてくれたの岳?」
「ああ。そ。あのままじゃ言い訳立たねえだろ。汚れた服も洗って乾かしておいてやったから」
ただそん時扇風機かドライヤーか必要になってさ、と続ける。
「職員室に借りにいったんだけど、やっぱ理由聞かれてさ、お前がうっかりトイレの便器に落ちた拍子にタンクで頭ぶつけて下着ごとだめにしたってことにしたから、後でなんか聞かれたら帳尻合わせとけよ」
「もうちょっとマシな言い訳なかったか?」
「咄嗟にでた割にはいい出来だろ」
そうだろうか。
しかしなんにしろ、
「ありがとう、岳。……助かった」
顔をあげると、岳と目が合った。颯介はすこし視線を逸した。
「それと変なことさせて、頼んで、わるかった……ほんとに」
「や、別に……おれこそ、なんか調子にのって悪かったな」
「い、いや……」
「……」
漂う気まずさを振り払うように、颯介はまた何かで返させてくれよ、と明るい調子で言った。岳はおーと返しなから、それよかさぁ、と声を低くした。
「今回のそれ、原因はわかってんのか?」
「え、よくわかんないけど」
でもべつに。治ったし。一過性のものなら、にんげんそんなこともあるんじゃね、と首をかしげると岳の表情が険しくなった。
「いやおかしいだろ。あんなん。……あんな状態、おれには人為的なものにしかおもえないけど。なんか心当たりねえの」
「人為的?まさか。ないない」
だれが、なんのために。ひとの乳首に状態異常をかけるんだ。
「んー……まあいいけど、またなんかあったら俺に言えよ」
友情がこころに沁みる。素直に感謝を述べる。お前もなにかあればおれを頼ってくれよとほほえむと、頼りねーけど頼るわ、と岳も笑った。
すべての不安が払拭され、清々しい気持ちで帰路についた颯介は、ひとつきも経たないうちにまた泣きながら友人におねだりするハメになるとは思っていなかった。
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