発禁状態異常と親友と

ミツミチ

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乳首編

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「……颯介?」
 四限終了のチャイムが鳴った。
「おまえ本当に大丈夫か? ずっと突っ伏してただろ」
 机に手を突く友人から顔を逸らし、大丈夫、とだけ返す。ふらりと教室を出たと同時、颯介は走った。

 ──拷問だった。
 颯介は旧校舎のトイレに向かいながら、この先どんなつらいことがあっても、この両乳首に強いられた苦難をおもえばなんだって乗り越えられると確信していた。それほどまでに、数時間の焦らしによって育ちきった疼きは一秒だって耐えがたかった。
「はっ……も、も、むりッ……!」
 個室へ飛び込み便座に座り鍵をかけてすぐ、おもいきり乳首に爪を立てたが、
「あ゛ッ……!!!?」
 あまりの衝撃に、指を離した。
「えっ……なに、ッ」
 焦らしに焦らしたせいか。ただただ時間の経過により症状が悪化したのか。
 乳首はあまりに敏感になっていた。
 射精したての亀頭のように、触れるだけで腰がひけてしまう。今しがた背筋を走った電流のような痺れを前に、颯介は取り返しのつかないような焦りを覚えた。
「っ……」
 これ、やばい。
 これ以上触ったらだめだ。
 そう思うのに、一瞬得られた快感をもっともっととねだるように、乳首はつんとシャツを押し上げて、
「っ……だめ、だって……、こんなのっ」
 そろそろと指先が動く。脈打つような疼きが理性を濁らせる。そっと、そーっと、服の上から右の突起の先端を中指の腹で優しくすった。
「ん゛っ……!」
 がくん、とタンクに預けていた背がずり落ちる。
「あっ……っ、ふ、ッくぅ、ん」
 一度触れてしまうと、もうだめだった。左手も胸へ伸ばし、両方の乳首の先端を、すり、すり、と撫でさする。
「ぅ゛っ……ッ、ッ……!」
 なんてことはない優しい愛撫が、鋭い快感の連続となり、颯介は喉を晒して悶えた。刺激するたびに腰が動く。それを恥ずかしいとおもうのに指はとめられず、は、は、と熱い息を漏らしながら乳首を弄る。しかしその刺激は、膨れ上がった疼きを散らすほどではなかった。半端な摩擦は痒みを助長する。渦巻く疼きが、もっと、ぎゅっと、思いきりひっかいて、抓って、疼きをかき消すほどの強い刺激を求めているのに、
「い゛っ……!! ま、むりっこれ無理……!」
 それをするには、あまりに敏感すぎて。
 指先にほんのすこし力を込めただけで。押し潰された乳首から溢れる快感は颯介の許容量を越した。脳がストップをかける。そんな強く触れない。でも優しく触れる手は止められない。でもそうすると余計に疼いて、もっとつよいのがほしくなって、だけど自分じゃできなくて、どうしようもないループに絶望し、颯介はうぅ、と背を丸めた。
「はっ……も、ゃだ……」
 情けなさに涙がにじむ。トイレの個室に座りこみ、ひとりで喘いで、自分は何をしているんだ。もうやめたい。もう帰りたいという思いをかき消すように疼く。疼いて仕方ないのに──
「ふっ……」
 昼休み終了五分前のチャイムが鳴った。
 騒がしい外の喧騒を耳にしながら、颯介はいっそ切り落とせば、とまでおもいつめていた。
「おーい、颯介!」
 その時、個室の外から友人の声がした。
「岳……?」
「やっぱりここか。大丈夫か? 腹いてーの? それともやっぱ具合悪い?」
「がく……、うっ……」
「あ!? どうした!?」
 岳が扉を叩く。颯介は震える指で鍵を開けた。
「うわ、顔真っ赤じゃん」
 どしたの、と眉を寄せる友人を前に、颯介は甘い吐息を飲みこんで、
「ちが、その、ほ、保健室行きたい……」
 とだけ伝えた。



「先生、午後は不在みたいだな」
 勝手に薬とかもらっていいのかな、と岳は保健室をうろついている。身を置く場所を変えても、颯介の身を襲う異常に変わりはない。ベッドに腰掛けたまま、油断すれば胸元に向かいそうになる手をぎゅっと握り、疼きに耐えていた。
 ……こんなの変だ。
 どう考えてもおかしい。きのうまで乳首なんて、ただの肌と地続きの、なんてことないもんだったのに。さすがに察してしまう。これはただの虫刺されじゃない。もし、病気だったら。このまま治らなかったら。そうしたらおれ、病院にいって、乳首が痒くて……かゆくてきもちいいですっていわないといけないのか?でも触るときもちよすぎてしにそうなんですって……、イヤだ。絶対イヤだった。でも我慢してるうちに乳首だけじゃなくて全身にまで拡がったりして、一生治らなかったら、
「うッ……」
 颯介の瞳から涙がこぼれた。
 突然の友人の涙を前に、岳は唖然と口を開けた。
「颯介。どうしたんだよお前」
「……岳」
「そんなに痛いのか? しんどいのか?」
 いつもはからかってばかりの友人が、今ばかりはその軽い口を閉じ、颯介の前に膝まづく。
「……それとも、何か嫌なことでもあったのか?」と静かに尋ねる。そんな友人だから言いたくなくて、でもそんな友人にしかもう頼れなかった。
「……岳、おれ、その、今朝から、ち、ちっ」
「ち?」
「ぃ、いやっ、やっぱなんでも」 
 膝元で握った拳の上に、岳の手が重なった。
「颯介。おれとお前の仲だろ。言いたいことがあるならなんでも言えよ。おれにできることなら、なんでもするから」
「おれっ、おれぇ、今朝から、乳首が痒くてっ」
「ぉアっ?」
「うずいて、どうしようもなくって」
「え、ぁ、おう」
 必死に聞き入れようとしてくれている。
「び、敏感すぎて自分じゃ強く触れなくって、でも疼いてうずいて、仕方なくって……だから、だから、その」
 その先が言えない。
「……おれに、触ってほしい?」
 羞恥で人がしねるなら、おれは確実に今しんだ。
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