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しおりを挟む冷たい床に膝立ちで固定された青年は、獣のような荒い息を繰り返している。
扉の音にぴくりと反応したが、その身がこちらに駆け寄ることはない。足首と膝に嵌められた枷を床に固定され、両腕はゆとりなく天井から吊るされている。身を休めることがかなわない体勢だったが、それよりも、青年は別の苦痛によって全身を汗に濡らしていた。
青年の頭を覆う皮の袋。すっぽりと被せられ、外れぬよう首元で締められている。端から滴る雫。ユリギにたっぷりと浸されたそれは、青年の呼吸の奥深くまでを犯していた。
ユリギは流通を禁止されている劇薬である。その名は実際には原料となる花の名前で、花に成るルビー色の実を擦り潰して抽出する粘性の液体は、鼻を掠めただけで精尽きるまで腰を振り続けるといわれる媚薬と化す。一時闇市場で高値で売買されていたが、高い中毒性と精神を壊すほどの乱用が相次いだことにより、厳しく取り締まられた。その種はいまや燃やし尽くされたとされている。
しかし王宮の箱庭では、拷問用に改良した品種が今もその実を赤く実らせている。
よほどのことでもない限り使われることはないが、今回は特別に「上限なく」その使用が許されていた。
青年が息を吸うたびに、気化した毒が体内を侵す。半日をかけ、芯まで媚毒に浸された肢体に渦巻く熱がどれほど彼を追い詰めているか。見下ろす先の裸体が語る。腹筋につたう汗にすら反応し、激しく上下する胸の上では充血した乳首が主張している。はち切れそうなほどに滾り、先走りを太腿まで垂らす性器。その先端にぴとりと指をあて、揺するだけで簡単に精液を飛ばすだろうが。明日の公開乳絞りのため、その精は溜めておいてもらわねばならなかった。
気分はどうか、と問う。
もご、と皮袋が動いた。身を屈めてもう一度問うと、畜生が、と返ってきた。
いまだ意識を保っていることに感心する。以前同じ状態に落とした男は、十分もしない内に気狂いのように喚き絶頂を懇願したものだった。
これなら問題なさそうだ。
彼の震える膝の前方には、ユリギが注がれた壺が据え置かれている。その中にはまた別の皮袋が浸されていた。被せているものが乾き始めたら取り替える。これを明日まで繰り返す。本来ならとっくに過多の状態だが、青年の強靭な精神と身体をもってすれば、常人が狂うであろう『これ以上』をその身に強いても、そうそう壊れないことを、これまでの過程で理解していた。
いっそ早々に壊れてしまった方が、楽だったろうが。
ガドル大陸の西に領士をかまえる王国グロスタリアは、その類まれなる武力を誇る大国であった。
一方東のセリヴィア王国は機械文明や薬学に栄え、知力により繁栄した国である。ガドル大陸を分かつ二国は、他大陸に対しては今や友好条約を結ぼうとする姿勢を見せておきながら、実情は国境沿いでの諍いが絶えなかった。
そうしてついに、先日のアモネの事件をきっかけに、数百年の確執を終着へと導く戦争が開幕した。
当初は数で勝さるグロスタリアが有力とみられたが、武力には限界があった。どれだけその身体を鍛えようが、一個体が持てる力には限度がある。またその腕を振るえない幼子や老人は戦力外となる一方で、先人らの知識を積み重ね、深化させることができる知力には際限がなかった。次々と編み出される兵器。それをもってすれば国民全員が戦力と成り得る。その違いが、グロスタリアを着実に追い詰めていく。
そうしてついに、巧みな、ともすれば狡猾な戦法をもってグロスタリアの王子とその一団を捉えた。
老齢な王よりも、体躯に恵まれたわけではないが洗練された剣技によりグロスタリアの武力を支え、国民の精神の要である王子を捉えた時点で、勝敗はついたようなものだった。
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