特待「性」の日常

ミツミチ

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どんなに暴れてもいいし、なにを言ってもいいけどさ、逃げたらダメなんだよ

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「おい。独り占めすんなって」
 授業の合間の休み時間。大坪が席に近づいてきた。ラグビー部で体格のいい大坪は、文句の割に機嫌がよさそうだった。
「次おれんとこな。じゃんけん勝ったから」
 いつの間に。口惜しいけれど仕方ない。
「絢斗。ほら、立って」
 肩を叩くも机に突っ伏したまま動かない。
「あーやーと」
「も……っ、ゃだ、たてな……っ、も、これ抜いて……っ」
「なに言ってんだよ。そんなでかくもないし、動くわけでもないし、それくらい余裕だろ?」
「ちが……これ、ずっ、ずっとなかで動いて……っ、止まんな、くて、ぁ゛ッ……♡」
 そんなことを言って腰を揺らすものだから、ついつい離したくなくなってしまう。
「なら仕方ないな。ずっとおれの上にいよっか」
「おい」
 大坪が絢斗の両脇に手を入れて強制的におれの席から引きあげる。
「やっ、いやだ……っ!」
「ならさっき権田が言ったみたいに教卓の前に席移動させるか? どうせ板書なんてできないんだから、裸に剥いて縛りつけてさ、大股広げたまま授業受けるか?」
 絢斗が首を振る。抵抗を諦めて、そのままあっさりと大坪に連れていかれてしまった。次の授業が始まる。運のいいことに大坪の席は斜め前方だったので、ちょっと遠いが様子が垣間見える。筋肉質で太い、丸太のような大坪の片脚に跨る形で絢斗は座らされていた。足が床につかず、全体重が尻を重心にして大坪の太腿に乗っかっている。その状態で大坪は脚を左右に細かく揺すったり、膝を突きあげたりしてあそんでいた。絢斗の尻がずり落ちそうになると、絢斗の太腿を手のひらで押さえつけ、股ぐらを更に自らの足に食いこませた状態でまたぐりぐりと尻穴に揺さぶりをかける。小さく漏れ聞こえる甘い声がたまらなくて、はやく自分の番がこないかという気になったけれど、さっきやったばっかりだろとじゃんけんへの参加自体を却下された。おれのナイス助言でこうなったのに。理不尽な上に、次の時間は後ろの席に連れていかれてしまったので、いやだ、ちがう、ちがう、と断続的にあがる啜り泣くような声に想像だけが膨らんで、悶々とした時間を過ごすこととなった。




 次の授業は体育だった。
 自分で動こうとしない絢斗をジャージに着替えさせてグラウンドまでつれていく。
 今日は千メートル走のタイム測定日だった。
 絢斗は長距離よりも短距離の方が得意らしいけど、さすが特待性。去年の記録を見ると陸上部顔負けのスコアを出していた。今年は負けないぞと陸上部のクラスメイトが負けん気を見せていたが、絢斗はスタートダッシュから出遅れて、あっという間にみんなに追い抜かされていった。
 全員が走り終えても、絢斗はまだ三分の一も走り終えていなかった。仕方がないのでみんなで絢斗が走る姿を見守る。一歩足を進めるごとに不自然に体を震わせて、はひはひと無駄に息を荒げている。走りきるまで終わらないぞと言われて必死に前に進もうとしているものの、フォームはなってないし、変なタイミングで立ち止まるし、足はがくがくと震えて、ついには走ってるのか歩いてるのかわからないくらいの早さになって、それでもと踏みだした足をもつれさせてその場に崩れおちた。グラウンドの真ん中で小さく蹲り、もうなにを言ってもうごかなくなった絢斗を保健室で休ませてやろうと教師が保健委員に声をかけた。そうして保健委員の川名と、支えきれないからと部活仲間の大坪も一緒に絢斗の肩を支えてグラウンドから去っていった。
 彼らの背中を見送ってから、こっそりと授業を抜けだす。
 案の定保健室にはいなかった。思いつきのまま教室に向かう途中、廊下の曲がり角で人とぶつかった。
「あ、ごめ」
 言いかけて、なんでこんなところに?と疑問がよぎってから、その人物の顔を見て納得した。
「あ……っ」
 さーっと顔を青褪めさせる絢斗。
 一瞬たじろいだものの、すぐに足を踏みだしておれの横をすり抜けようとする。その腕を掴んだ。
「っ、はなせ……!」
「あーいたいた」
 後ろから川名と大坪がでてくる。
「あれ、辻井? なんで?」
「それは、まあ、あれじゃん」
 べつにいいじゃん、と流したところで絢斗が暴れだした。
「はなせっ、離せって……!」
「こらこら。廊下で騒ぐな。話なら教室で聞くから」
 大坪にひょいと掲げられて教室に戻る。
 床に落とされた絢斗は、三人に囲まれ見下ろされても勢いを失わず、
「ほ、放課後だけじゃないのかよ……! なんで、こんなっ、授業中までこんなことされなきゃいけないんだ……っ」
 なんて今さらなことを吠えた。
「だからってさ、逃げたらだめだろ」
 川名が絢斗の前に腰を下ろす。
「どんなに暴れてもいいし、なにを言ってもいいけどさ、逃げたらダメなんだよ」

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