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佐伯龍を知る者

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「そうか、それなら、まゆを抱く時は佐伯龍に戻ってもいいか」

私はその方が望ましいが、どう答えていいかわからなかった。

「まだ飯支度してないだろう、外に食いに行くか」

「はい、すぐ支度します」

そして祐志さんと外に食事に出かけた。

祐志さんは新宿歌舞伎町に連れて行ってくれた。

生まれてはじめて足を踏み入れる街だった。

「うまい飯を食わしてくれる店があるんだ」

そう言って、私を連れて行ってくれたのはオカマバーだった。

「あら、いらっしゃいませ、龍よね、生きていたの?」

「内緒な、俺は今服部祐志として外科医の医者なんだ」

「そうなんだ、それで、そちらの可愛いお嬢さんはどなた」

「俺の妻だ」

「え~っ、龍結婚したの?」

私は固まって一言も喋れなかった。

「龍の奥さん、お名前は?」

「まゆと申します」

「育ちがいいのね、龍、どこで捕まえたの?」
「俺の許嫁」

「やだ、許嫁って、親同士が本人の了解なしで決めちゃうやつ」

「しかも、お互いに許嫁って知らないうちに身体を重ねたんだ」

「運命の相手ね」




運命の相手?

でも私の許嫁は祐志さんで、龍じゃない。

もし、龍が佐伯龍の人生を歩んでいたら、私とは巡り合わなかった。

祐志さんが祐志さんだったら、私を好きになってくれたかわからない。

工藤さんとも、仁さんとも、巡り合っていなかった。

私はお父様の決めた男性と結婚していたんだ。

「どうかしたか、まゆ」

「いいえ、どうもしません」

龍が服部祐志さんの人生を歩んでいくのは、外科医になりたかったから。

誰とも関わりを持たないように生きてきた。

でも、私と巡り合って、龍にとって本当に運命の人なの?





許嫁だから仕方なく、堅気だから、セックスだってずっと私に合わせてくれていた。

生活だって、一人なら、病院以外は龍として生きていけばいい。

でも、工藤組長にも言われたけど、堅気の外科医服部祐志として、妊娠した私と結婚して、

養わなければいけない。

もっと自由に何事にも我慢しないで、生きていきたいんじゃないのかな。

そんな時、店に人相の悪い奴らが入ってきた。

「おい、立ち退きに応じる気になったか」

「立ち退きません」

「そうか、おい、少し痛めつけろ」

ヤクザと思われる連中が、嫌がらせを始めた。

さっきまで龍と話をしていたバーのママさんが蹴り飛ばされた。

「おい、嫌がらせはやめろ」

龍がヤクザに向かって、言葉を発した。

「誰だ、てめえは」

「暴力はやめろ」

「俺を誰だと思ってる」

次の瞬間、龍を殴った。

「龍」

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