限られた時間であなたを感じていたい

ラヴ KAZU

文字の大きさ
上 下
6 / 10

霊体さん、あなたは誰?

しおりを挟む
琴葉は俺に振られたと思い込んでいる。

確かに霊感は他の人間より感じるんだろう。

しかし、まさか俺とは思っていない。

また、中村の身体を借りるとするか。

霊体が俺だと言うことは伝えられない。

でも、振られたんじゃないと言う事実は伝えたい。

俺は仮の姿の元に戻った。

琴葉が泣いている様子が感じられた。

俺は矢も盾もたまらず霊体で琴葉の元に飛んだ。

琴葉!

泣いていた琴葉は俺を感じたのだろう。

顔を上げて、涙を拭い、辺りを見回した。

「霊体さん?」

琴葉はキョロキョロして、俺がいる方向に視線を向けた。

まるで俺の姿が見えるみたいに、俺を見つめて来た。



「琴葉」

俺は思わず琴葉を抱き上げた。

一瞬びっくりしたようだが、でも確実に俺が、いや、正確に言えば琴葉を助けた霊体がその場に存在する事を確信したようだった。

「ごめんなさい、一人でいると寂しくて、涙が溢れてくるんです、あっ、もう下ろしてもらっていいですか」

俺は琴葉を下ろした。

「ちょっとだけ、気持ちが楽になりました、でも、なんでいつも私の危険を察知して助けてくれたり、落ち込んで泣いてる様子を察知出来るんですか?」

琴葉の様子は全て俺の脳裏に浮かんでくる、自分でも不思議だよ。

俺の声は聞こえない、琴葉は一生懸命答えを感じ取ろうとしてくれていた。

「多分霊体さんは感じるんでしょうね、でもあなたは誰なんですか」

俺は驍だよ。

「驍?」

えっ?俺の声聞こえたの?

「そんなわけないですよね」

だよな、びっくりした。

琴葉とのこんなやりとりが新鮮で、心地良かった。

「霊体さん、私ね、驍って思いたいのかもしれません、だって連絡取れない理由が嫌われて連絡取れないのと、霊体になって連絡取れないのとって考えたら、私以外の女性と何処かで一緒より、霊体でも私を好きでいてくれた方がいいから」




琴葉!

「ごめんなさい、ご迷惑ですよね」

そんな事ないよ、俺は琴葉が俺を、いや、霊体を感じてくれる事に感激してる。

琴葉は俺がいるであろう方向をじっと見つめた。

俺は琴葉の頬を両手で触れてみた。

琴葉が俺を感じてくれたような表情を見せた。

俺はそっと琴葉の唇にキスをしようと試みる、二人の距離が縮まる。

一瞬、琴葉が目を閉じたように思えた。

俺は琴葉にキスをした。

触れている感触が全く感じなかったが、不思議と気持ちが高揚した。

琴葉はゆっくりと目を開いた。

俺はその場を離れた。

これ以上琴葉の側にいることは、俺の理性がもたないからだ。

琴葉は俺の気配が消えた事を感じ取った。

そして、何度も何度も俺の名前を呼んだ、俺に届かない声で……

この時、琴葉が霊体を俺だと思い込んだことなど知る由もなかった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

【完結】共生

ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。 ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。 隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?

回想録

高端麻羽
ミステリー
古き良き時代。 街角のガス灯が霧にけぶる都市の一角、ベィカー街112Bのとある下宿に、稀代の名探偵が住んでいた。 この文書は、その同居人でありパートナーでもあった医師、J・H・ワトスン氏が記した回想録の抜粋である。

【R15】アリア・ルージュの妄信

皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。 異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どんでん返し

井浦
ミステリー
「1話完結」~最後の1行で衝撃が走る短編集~ ようやく子どもに恵まれた主人公は、家族でキャンプに来ていた。そこで偶然遭遇したのは、彼が閑職に追いやったかつての部下だった。なぜかファミリー用のテントに1人で宿泊する部下に違和感を覚えるが… (「薪」より)

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

高校のナゾ

Zero
ミステリー
主人公 白鷺新一が入学した高校で次々と起こる事件。 新一はそれらを解決することができるのか

処理中です...