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第十一章 由梨の記憶が消えた

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「ここに座って」

由梨はベッドに座るように言われて、腰を下ろした。

健吾はゆっくりと顔を近づけた。

そしてそっと由梨の唇に触れた。

由梨はキョトンとしていた。

(大丈夫だったか)

健吾は拒絶される覚悟でいた。

でも由梨から発せられた言葉は以外なものだった。

「何でキスしたんですか、奥様に申し訳ないです」

「由梨が俺の奥さんだから何の問題もないよ」

「そうなんですか」

「うん」

健吾は由梨を抱ける日は来るのだろうかと落ち込んだ。

(もしかして俺もこともわからなくなるんだろうな)

健吾ははじめて恐怖を覚えた。

今まで生きてきて怖いと思ったことは一度もない。

いつも死と隣り合わせの世界で生きてきた。

そんな健吾が愛する由梨に誰と言われることが、怖くて仕方がないのだ。
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