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第二十五章 記憶がない蓮

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美希は毎日、蓮也と美蓮の育児に追われ、さらに俺の面倒も見てくれた。

真弓のことがあって、蓮は美希に頭が上がらない。

取引先との付き合いも、酒は飲まないと約束した。

そんな矢先、蓮が交通事故を起こして、救急搬送された。

手術室の前で、東條が心配してうろうろしていた。

「東條さん、蓮さんは?」

「奥様、今手術が始まったばかりです」

「輸血は大丈夫でしょうか」

「まだ、何も聞いておりませんので、分かりかねます」

美希に抱っこされている美蓮が急に泣き出した。

「大丈夫よ、よしよし」

「美蓮様、何か感じたのでしょうか」

「お腹空く時間なので、ミルクあげますね」

「お腹空いたのか」

東條が美蓮を覗き込むと、泣き止んだ。




「東條さんを好きみたいですよ」

「それは光栄です、奥様、社長は大丈夫ですよ」

美希は美蓮にミルクをあげながら頷いた。

手術が無事終わり、先生からのお話があった。

「鏑木蓮さんの奥様でよろしいですか」

「はい」

「手術は無事終わり、命の危険は回避致しました」

「そうですか、ありがとうございます」

美希は目にいっぱいの涙を溜めて頭を下げた。

「ご主人様は車から投げ出された時、頭を強く打ち付けた状態でした、
心配なのは、脳の障害です、意識が戻っても、記憶障害が残る可能性は
否定出来ません」

「それは回復するのでしょうか」

「今のところ、なんとも申し上げられません」

「わかりました」

美希と東條は集中治療室にいる蓮の元に向かった。




「蓮さん、あなたがどんな状態になっても、何も変わりませんから、
安心してくださいね、ほら、美蓮もいますよ」

東條は美希の肩を抱いて、支えていた。

「大丈夫です、私は蓮也を迎えに行ってきます」

「かしこまりました、自分は会社に戻り、手続きをしてきます」

その後、蓮の意識は中々戻らず、美希は途方にくれていた。

蓮はしばらくして、一般病棟の個室に移動された。

美希は蓮也を連れて、蓮の元に向かった。

「蓮也、パパは怪我をして、まだ、眠ったままなの、でも蓮也が、
声かけたら、パパは目が覚めるかもしれないから、声をかけてあげて」

「わかった」

蓮也は蓮のベッドに近づいて、声をかけた。

「パパ、蓮也だよ、早く起きてね、それまでは、ママと美蓮は僕に
任せてね」

美希は頼もしく成長した蓮也に涙が溢れてきた。

それから、美希は蓮也と美蓮を連れて、マンションに戻った。
蓮也と美蓮を寝かしつけて、リビングで一人になると、張り詰めていた
気持ちが緩んで、ワンワン泣いていた。

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