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第七章 素直になれない気持ち

銃で撃たれた冨樫

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そんなある日、事件は起きた。

冨樫は敵対する極道に銃で撃たれた。

「若頭、しっかりしてください」

ヤスシは狼狽えていた。

脇腹からのおびただしい血があたりを血の海と化した。

冨樫は救急車で病院へ運ばれた。

冨樫の容態は意識不明の重体だった。

すぐに麗美に連絡が入り、当然葉月の耳にも入った。

「葉月、冨樫が撃たれた、意識不明の重体だそうだ」

葉月は手が震えた。




冨樫さん、死なないで。

「俺はこれからお嬢を連れて病院へ向かう、葉月はここで待っていてくれ」

「私も連れて行ってください」

「葉月が行ってどうなるものでもないだろう、それに俺の立場も考えてくれ」

葉月は思った、私は冨樫さんを愛してる、それなのに、城之内さんを愛しているなどと嘘をついた報いだ、冨樫さんが大変な時に側にいることも許されないなんて……

葉月は冨樫の命が助かることを祈るしか出来なかった。

その夜、城之内はマンションに戻った。

「冨樫さんの容態はどうなんですか、意識は戻りましたか」

「そうだよな、愛しているなら心配するよな」

「あのう、どう言う意味でしょうか」

「お嬢を連れて病院へ行ったんだが、冨樫の意識不明の重体に対して、
もう帰るわよって言ったんだ」

葉月は黙って城之内の話に耳を傾けていた。

「愛しているなら、少しでも側にいたいって思うのが当たり前だろう、
なのにお嬢は帰ると言い出した、信じられなかった」

葉月は確信した、麗美さんは冨樫さんを愛してはいないと……

私だって、今更冨樫さんの側に行ってどうなるの?

でも……

葉月は居ても立っても居られず、城之内に「ごめんなさい」と、
一言だけ言って、病院へ向かった。



「葉月、葉月戻るんだ」

しかし、城之内の言葉は葉月には届かなかった。

集中治療室の前には、ヤスシがいた。

「ヤスシさん」

「あっ、葉月さん」

「冨樫さんの容態は?」

「手術は成功して、球は取り除いたんですが、意識不明のままです」

冨樫さん、私はあなただけを愛しています。

早く目を覚まして……

葉月は片時も離れず、冨樫に寄り添った。

その間、麗美は一度も病院へはこなかった。

それから一週間が過ぎた頃、冨樫は目を覚ました。

ところが冨樫の様子がおかしい。

ヤスシのことはわかっているようだが、葉月とは初対面だと言うのだ。

葉月は過酷な現実に打ちのめされた。

先生の話によると、強いショックで、一時的な記憶障害だと言うことだった。

でも、なぜ、私のことだけ、覚えていないの?

葉月は落ち込んでいた。



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