夜の帝王の一途な愛

ラヴ KAZU

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あゆみの記憶がない

俺の客か

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あゆみは安定期に入った。

この世に生まれてくるまで安心は出来ない。

花屋はほとんど、友梨ちゃんに任せて、バイトも増やした。

俺は毎日、あゆみとお腹の子供に話しかけていた。

「おい、早く出て来い」

「凌、駄目ですよ、早産になっちゃいます」

「そうか、ゆっくりでいいぞ」

あゆみは毎日、満面の笑みを浮かべて過ごした。

そんな矢先、俺を突然の頭痛が襲った。

あゆみはお腹が大きくなって来たので、寝室は別にしていた。

夜中、俺を襲った激しい頭痛に一人で耐えていた。
朝、目が覚めると、一人の女が、俺を覗き込んでいた。

「凌、大丈夫ですか、中々起きてこないので、びっくりしました」

誰だ、この女、俺が連れ込んだ客か。

まさかな、俺は客とは寝ない主義だ。

俺は起き上がり、周りを見回した。

俺のマンションだ。

そして、女をマジマジ見た。

嘘だろ、妊婦かよ。

なんで妊婦が俺のマンションにいるんだ。

「凌、どうかしましたか」

あゆみは背筋が凍る思いがした。
凌の様子がおかしい。

幸せすぎて、ずっと忘れていた事実。

凌の認知機能障害は現れると言うこと。

冷たい視線、お前誰だと言っているような……

俺はとりあえず仕事に行くことにした。

「着替えるから部屋から出て行ってくれ」

あゆみは、凌の言葉に我に返り、凌の寝室を出た。

手が震えて呼吸が苦しい。

しばらくすると、凌がスーツ姿で現れた。

「悪いんだが、仕事に行く、帰ってくれないか」

あゆみは頭が真っ白になった。
凌が部屋を出ていく時、あゆみは背中を押された。

「鍵を返してもらえるかな」

「あっ、はい」

あゆみは急いでバッグから鍵を出して、凌に渡した。

「なんで、お前が俺のマンションの鍵を持ってるんだ」

あゆみは返事に戸惑った。

私の記憶がないのに、いきなり奥さんなんて言えない。

なんて言えばいいの?

「名前なんて言うんだ」

「あゆみです」

「俺の客か」

「いえ、違います」

「帰るところあるだろう」

あゆみはどう答えればいいか迷っていた。

「ないのか」

あゆみはここを追い出されたら帰る場所はない。

「あのう、なるべく早く、仕事探して、部屋借りますので、それまで置いて頂けないでしょうか」

「働くって、その腹で働けないだろう」

「あっ、そうですね」

「旦那はどうしてるんだ」

「えっと……」

俺は大きくため息をついた。

そしてじっと女を見つめた。

「ここにおいてやる、その代わり頼みたいことがある」

「なんでしょうか」

「飯作れるよな」

「はい」

「じゃあ、飯作ってくれ」

「わかりました」

あゆみはほっと胸を撫で下ろした。

でもまさか、認知機能障害が出るとは夢にも思わなかった。
「俺は仕事に行く、おとなしく留守番していろ」

「はい」

俺はホストクラブへ向かった。

店のトップには俺の写真が飾られていない。

店に入ると、ヒカルが驚いた表情で出迎えた。

「麻生さん、どうしたんですか」

「どうしたんですかじゃねえよ、なんで俺の写真ないんだよ」

「いや、だって……」

俺は店の奥に入っていくと、仲間は皆口を揃えて「どうしたんですか」と言ってきた。

その頃、ヒカルはあゆみに連絡していた。

「ヒカルです、麻生さんが今、店に来たんですが、認知機能障害が出たんですか」
「私もびっくりしてるの、私の記憶がないみたいなの」

「俺のことはわかっているんですけど」

「そう、私と知り合う前まで記憶が遡ったのかしら」

「とりあえず、麻生さんは店にいますんで」

「ありがとうね」

ヒカルはスマホを切った。

ヒカルが凌の元に戻ってくると、凌が小声で尋ねてきた。

「おい、今朝、俺の部屋に女がいて、しかも妊婦なんだ、お前知ってるか」

「麻生さんの奥さんですよ」

俺は驚きの表情を見せた。
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