17 / 100
第三章 妊娠
キスしているのは誰?
しおりを挟む
彼は黙ったまま私の話を聞いていた。
「この間、具合悪くなった時、心配だから病院へ行きましょうって言ったけど、病院行きたがらなかったし、私、心配で麻生さんの寝顔見に行った事あるのです、その時、苦しそうにまるで魘されているみたいに「あゆみごめん」って、何がごめんなのですか、麻生さんどこかへ行くって事ですか、私は一人になっちゃうの」
もう涙が止まらなかった。
彼は私を抱きしめて落ち着かせようとしてくれた。
「あゆみ、落ち着いて、そんなに一遍に話したら分からないよ」
彼は暫く私を抱きしめたまま、大丈夫、大丈夫って繰り返してくれた。
「まず、沈黙した理由だな、え~っと、全然覚えてない、それから病院行かないのは大丈夫だから、それからあゆみごめんの寝言だよな、え~っと、これも全然覚えてない」
彼は私の不安を覚えてないと大丈夫で終わらせた。
「あゆみ、覚えてない事だから、たいした事ない事だと思うよ」
何も言えなかった、納得したわけじゃないけど、私の考え過ぎならいいと、自分に言い聞かせた。
彼は暫くの間私を抱きしめてくれた、すごく安心した、ずっと彼の傍に居たいって、この時私は強く願った。
つわりが始まり、初めての事ばかりで、毎日が不安だった。
でもいつも彼は私を抱きしめてくれた。
しかし最近気づいた事がある、それは彼が私にキスをしなくなった事である。
どうしてだろう?と気になっていた。
もしかして他に好きな人が出来て、私に対して好きって気持ち薄れてきたのだろうか。
そんな矢先、彼が女性とキスしているところを見てしまった。
やっぱり、私は嫌われてしまったと涙が溢れてきた。
それから何処をどうして歩いたか覚えていない、たどり着いたのは産婦人科だった。
「先生、出産止めたいのですが」
私は彼に迷惑掛けたくない一心で、他に何も考えられなかった。
「落ち着いてください、ご主人さまはご一緒ですか?」
取り乱している私の様子を不思議に思い、深呼吸するように促してくれた。
「ご主人さまの同意が無ければ、中絶手術は出来ませんよ」
「でも、彼は責任感が強いので、子供を望まなくても出産の道を選ぶと思います、彼女が可哀そうです」
「彼女?ご主人さまの彼女ですか?」
私は先生の言葉に大きく頷いた。
「私達、契約結婚なのです、彼は身の回りの世話をしてくれる女性を探していて、税金対策の為結婚したのです、彼女の存在は確認したのですが、彼女はいないと言っていましたでもやっぱりいたのです、当たり前ですよ、二十五歳の彼が私に本気になるなんてありえないですから」
先生にすべてを話した。
「分かりました、今日はここに泊まって明日ゆっくり考えましょうか?」
ゆっくりも何も、私は彼の人生に割り込んだ厄介者だと言う事実は消せない。
おとぎ話のような、白馬の王子様が現れて私がお姫様になるなんて、やっぱりありえない事なのだ、どうしよう、どうしよう、もし私が彼女の立場だったら居たたまれない気持ちになった。
税金対策とはいえ、結婚して、彼の優しさに甘えて、その気になっちゃって、出産しようとしているなんて。
「この間、具合悪くなった時、心配だから病院へ行きましょうって言ったけど、病院行きたがらなかったし、私、心配で麻生さんの寝顔見に行った事あるのです、その時、苦しそうにまるで魘されているみたいに「あゆみごめん」って、何がごめんなのですか、麻生さんどこかへ行くって事ですか、私は一人になっちゃうの」
もう涙が止まらなかった。
彼は私を抱きしめて落ち着かせようとしてくれた。
「あゆみ、落ち着いて、そんなに一遍に話したら分からないよ」
彼は暫く私を抱きしめたまま、大丈夫、大丈夫って繰り返してくれた。
「まず、沈黙した理由だな、え~っと、全然覚えてない、それから病院行かないのは大丈夫だから、それからあゆみごめんの寝言だよな、え~っと、これも全然覚えてない」
彼は私の不安を覚えてないと大丈夫で終わらせた。
「あゆみ、覚えてない事だから、たいした事ない事だと思うよ」
何も言えなかった、納得したわけじゃないけど、私の考え過ぎならいいと、自分に言い聞かせた。
彼は暫くの間私を抱きしめてくれた、すごく安心した、ずっと彼の傍に居たいって、この時私は強く願った。
つわりが始まり、初めての事ばかりで、毎日が不安だった。
でもいつも彼は私を抱きしめてくれた。
しかし最近気づいた事がある、それは彼が私にキスをしなくなった事である。
どうしてだろう?と気になっていた。
もしかして他に好きな人が出来て、私に対して好きって気持ち薄れてきたのだろうか。
そんな矢先、彼が女性とキスしているところを見てしまった。
やっぱり、私は嫌われてしまったと涙が溢れてきた。
それから何処をどうして歩いたか覚えていない、たどり着いたのは産婦人科だった。
「先生、出産止めたいのですが」
私は彼に迷惑掛けたくない一心で、他に何も考えられなかった。
「落ち着いてください、ご主人さまはご一緒ですか?」
取り乱している私の様子を不思議に思い、深呼吸するように促してくれた。
「ご主人さまの同意が無ければ、中絶手術は出来ませんよ」
「でも、彼は責任感が強いので、子供を望まなくても出産の道を選ぶと思います、彼女が可哀そうです」
「彼女?ご主人さまの彼女ですか?」
私は先生の言葉に大きく頷いた。
「私達、契約結婚なのです、彼は身の回りの世話をしてくれる女性を探していて、税金対策の為結婚したのです、彼女の存在は確認したのですが、彼女はいないと言っていましたでもやっぱりいたのです、当たり前ですよ、二十五歳の彼が私に本気になるなんてありえないですから」
先生にすべてを話した。
「分かりました、今日はここに泊まって明日ゆっくり考えましょうか?」
ゆっくりも何も、私は彼の人生に割り込んだ厄介者だと言う事実は消せない。
おとぎ話のような、白馬の王子様が現れて私がお姫様になるなんて、やっぱりありえない事なのだ、どうしよう、どうしよう、もし私が彼女の立場だったら居たたまれない気持ちになった。
税金対策とはいえ、結婚して、彼の優しさに甘えて、その気になっちゃって、出産しようとしているなんて。
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
アラフォーだから君とはムリ
天野アンジェラ
恋愛
38歳、既に恋愛に対して冷静になってしまっている優子。
18の出会いから優子を諦めきれないままの26歳、亮弥。
熱量の差を埋められない二人がたどり着く結末とは…?
***
優子と亮弥の交互視点で話が進みます。視点の切り替わりは読めばわかるようになっています。
1~3巻を1本にまとめて掲載、全部で34万字くらいあります。
2018年の小説なので、序盤の「8年前」は2010年くらいの時代感でお読みいただければ幸いです。
3巻の表紙に変えました。
2月22日完結しました。最後までおつき合いありがとうございました。
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
【完結】鈍感令嬢は立派なお婿さまを見つけたい
楠結衣
恋愛
「エリーゼ嬢、婚約はなかったことにして欲しい」
こう告げられたのは、真実の愛を謳歌する小説のような学園の卒業パーティーでも舞踏会でもなんでもなく、学園から帰る馬車の中だったーー。
由緒あるヒビスクス伯爵家の一人娘であるエリーゼは、婚約者候補の方とお付き合いをしてもいつも断られてしまう。傷心のエリーゼが学園に到着すると幼馴染の公爵令息エドモンド様にからかわれてしまう。
そんなエリーゼがある日、運命の二人の糸を結び、真実の愛で結ばれた恋人同士でいくと幸せになれると噂のランターンフェスタで出会ったのは……。
◇イラストは一本梅のの様に描いていただきました
◇タイトルの※は、作中に挿絵イラストがあります

ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる