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第十章 大好きな廉也

与那国島へ逃げてきた理由

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「貧血と自律神経の乱れがあります」

「でしたら東京の大学病院へ転院させます」

「みゆ、会社も辞めてあいつのマンションも引っ越したんだろ?僕と東京へ帰って、一緒に暮らそう、みゆ、僕のところへ来るんだ」

龍司さんはそう言うと私の腕を掴み、診療所から連れ出そうとした。

「いや、東京には帰りたくない」

初めてだった、自分の気持ちをはっきり言葉にしたのは……

でもその途端急に息が苦しくなり、過呼吸に襲われた。

「立木さん、大丈夫ですか」

北山先生は私をベッドに運び処置をしてくれた。

「先生、みゆは大丈夫でしょうか?」

「過呼吸を起こしたんです、今日のところはお引き取りください」

「わかりました、また明日参ります」

龍司は診療所を後にした。

私はしばらく眠ってしまったらしく、気がつくと辺りは薄暗くなっていた。

「北山先生、私……」

「気がつきましたか?過呼吸を起こしたんです」

「すみません、また先生にご迷惑をかけてしまって……」

「大丈夫ですよ、以前過呼吸を起こしたことはありましたか?」

「いえ、初めてだと思います、あのう、龍司さんは」

「今日のところはお引き取り願いました」

北山先生は優しい笑顔を見せて、私を気遣ってくれた。

(でも先生の言葉に甘える訳にはいかない)

と、自分に言い聞かせた。

(龍司さんに連れて行かれそうになった時、はっきりわかった、私は龍司さんにはもう気持ちはないんだ)
(廉也さんが大好き、でももう廉也さんの側にはいられない、東京に戻れば嫌でも廉也さんの行動や噂が耳に入ってくるから……もう東京には戻りたくない、でも北山先生の気持ちには答えられない、どうしよう、やっぱりここにはいられない)

私は北山先生に全てを話し、ここを出る決心をした。

「先生、お話があります、聞いて頂けますか?」

「もちろんです」

私は深呼吸をしてから話し始めた。

「私、東京に好きな人がいるんです、ある会社の社長さんで、彼も私を好きって言ってくれました、でも私過去の恋愛でトラウマがあって、さっきの龍司さんと付き合っていた時龍司さんは次期社長で、会社役員の方々に結婚を反対されて、別れることになったんです」

先生は黙って私の話に耳を傾けていた。

「もう、誰も好きにならないって心に決めたのに、また社長さんを好きになってしまって、その人には会社が契約を交わした取引先のお嬢さんとの結婚の話が進んでいたんです、だから私、会社辞めてその人の前から姿消したんです」

「だから東京へは帰りたくないんですね」

私は下を向きながら頷いた。

「立木さんが好きな人は桂木廉也?」

「えっ!」

先生の言った言葉に耳を疑った。

「うわ言のように名前呼んでたから、実は廉也と僕は知り合いなんです」

しばらく北山先生を見つめ、私は固まった。

北山先生はゆっくり廉也とのことを話し始めた。
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